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      MAIL MAGAZINE  梟雑話

       2002/06/24  [007]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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今回は美原の春の様子を書いてみようと思う。
 日に日に暖かさが増してくると、山奥のこの地も春めいてくる。2メートル
近く積もった雪が次第に量を減らして雪の表面がかたくなって光ってくる。
昼間のぎらぎらした日差しが雪の表面を解かし、まだまだ厳しい夜の寒さで上
側が氷になっていく。ある程度氷層が硬くなると人が歩いてもぬかる事がなく
なる。そして日中の暖かさがどんどん増すと表面は砂糖のざらめのような状態
になる。

 土曜の午後や休日は、子供たちの橇(そり)遊びに絶好の時になる。木製の
2、3人乗りから、大きいのは4、5人乗れる橇(イヌゾリの背当てをとった
ようなもの)の足というかアームというか雪にあたる部分に鉄板を貼り付けた
のを尻別岳(しりべつだけ)のふもとまでひいていく。
先頭には舵取り役の子がさっき引っ張ってきたときのロープをしっかと握り橇
に座り足は両側に伸ばす。その後に皆が同じように乗り前の人の胴に両手でし
っかりつかまる。「皆いいかい、いちにのさんっ」、後は舵取りまかせ運まかせ
皆後ろ反りになって足が雪につかないように突っ張って一気に滑り降りる。
30分以上もかかって登っていったのに10分もかからずに滑り降りてしまう。

 うまくいかずにひっくりかえるともう大変、顔を擦りむいたりあちこち痛く
子供のことだから「誰か足ついたんでしょう、舵取りが下手だったからだ」と
ひとしきり言い合ってまた舵取りを代えたりしてくたくたになるまで遊んだ。
汗をかいて赤くなった顔は強い日差しとあいまって皆真っ黒に日焼けした。

 その頃畑では散土といって雪の下から取り出した土を撒く作業が始まる。早
い雪解けを促すためだ。まだ硬い芽の猫柳が現れ少しずつほぐれ始める頃ちょ
っと坂になった家の前の道では雪のしたから微かに水の音がする。解けた雪が
雪の下でちょろちょろと流れているのである。
土が見え初め小さなふきのとうが頭を出す。大きなつるはしを持ち出して残り
の氷を割るのは面白かった。外は泥んこ道になるがまだまだ山は雪である。

  木の葉が雪をおとせばみそさざい  山頭火

  遠山の雪ひかるどこまで行く  山頭火

  晴れて風ふく春がやってきた風で  山頭火

  すこし濁って春の水ながれてくる  山頭火

  猫柳どうにかかうにか暮らせるけれど  山頭火

 5月の声を聞くと野山は少しずつ緑になってくる。郭公が鳴く頃には山すそ
の林には一輪草や二輪草が咲く。冬の間を漬物という形でしか摂れなかった野
菜を春の野草で摂る時期である。私たちは探険をかねて野草を採りに行った。
正式名はわからないが水色の花をつけたあめふり花は湯がいておひたしにコジ
ャクソウとよんでいた草はおひたしや胡麻あえにした。春一番の緑の野菜だ。

なぜか家ではふきのとうは食べなかった。
蕨や蕗は家族で採りに行って大きな樽に塩漬けした。
山独活(うど)はそのきつい香りで嫌いだった。
たらのめ(私たちはたらんぼうと呼んでいた)は胡麻あえやてんぷらにして食
べた。

  蕗のとうあしもとに一つ  山頭火

  何やら咲いている春のかたすみに  山頭火

  鴉があるいて(い)る萌えだした草  山頭火

  けふのよろこびは山また山の芽ぶく色  山頭火

  山ふところの水涸れて白い花  山頭火


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 ご愛読ありがとうございます。 父を手伝ってのダリアの植付けが終わりま
した。しばらく雨が無く一雨を待っていましたら昨夜から今日一日降っており
ます。雑草もいっきに芽を出しました。晴れたら草取りです。

 父譲りの好奇心の強い私は、今年はふきのとうとアカシヤ(ニセアカシヤ)
を天ぷらにして食べてみました。ふきのとうは思ったとおりほろ苦く春の香り
ぷんぷんでした。  アカシヤは摘んだときから甘さもあるよい匂いで揚げて
いる最中も口に入れてもそのままの香りで、なんともよい気分で感歎の声をあ
げました。鼻のきかない父は残念そうでした。



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    著者 佐藤北耀

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