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      MAIL MAGAZINE  梟雑話

       2002/08/05  [013]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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花火

先日、千歳市の花火大会を買い物がてら見にいった。車を走らせながら途中か
ら見た。どの花火大会でも同じだが、終わりに連発される色とりどりの花火は
一番美しい。
花火にはいろいろの思い出がある。

美原の花火は、夏休みの八月七日の七夕の花火だ。
子供たちは、一年に一度の浴衣を着せてもらって、日が暮れた頃、細長い棒に
針金で括りつけた紙提灯に蝋燭を灯して、「蝋燭出せ出せよ、出さないとかっ
ちゃくぞ(引っ掻くの意味)、おまけに食いつくぞ」と、なんとも恐ろしいは
やし言葉を繰り返して家々を回って、1、2本の蝋燭を貰って、真暗い夜道を
提灯の灯りを頼りに、校庭まで歩くのである。

小さな蝋燭は途中で燃え尽きるので、新しいのを付け替えなければならないが、
下手をすると紙の提灯は、ぱっと燃えてしまうことがあった。
その子は泣きながら歩いた。校庭には先生や大人の人たちがいて、線香花火や
ネズミ花火、ヒュ−ポンとあがる細い花火などが用意してあって、火を付けて
貰って皆でわずかな花火を楽しんだ。

昔の線香花火は、手を動かさないようにじっと持っているとずいぶん長持ちし
たが、最近のはすぐ落ちたり、チカチカとはかなげに散る火花が少なくなった
ように思う。
小さな袋に入ったお菓子も貰って、まだ貧しかった頃のささやかだが楽しかっ
た思い出である。

小学四、五年生の頃、母方の叔父のところに泊まった時に花火をしてくれるこ
とになった。叔父が徳用マッチの新しい箱を開けようとした時、何の弾みか突
然燃え上がって、叔父は髭、睫毛、眉毛、前髪を焦がした。
火傷こそしなかったが怖かった思い出である。

中学三年で札幌の家に戻ってからは、毎年豊平川の花火大会が楽しみだった。
歩いて七、八分で堤防の特等席(?)に行けた。
川の両岸に渡って仕掛けられた、ナイアガラの滝は素晴らしかった。
長男が一歳の頃、見に連れて行ったが、大きな音にただただしがみついて泣く
だけだった。この子は動物園でアシカの鳴き声が怖いといっては泣き、コパカ
バーナ海岸では荒波が怖いといってはしがみついて泣いた。今では芯のある優
しい男になったが。

東京に住むようになって、隅田川の花火を浅草に見にいった。各方面から集ま
ってくる大勢の人の波に驚いた。
隣町の浦安にディズニーランドが出来て、夏になると金、土、日と連日花火が
あがった。高層マンションの上階に住んでいる人たちは、部屋から見えるとい
うことだったが、家は二階だったので公園に行って見たものだった。

昔は年に一、二度は大きな花火事故があったが、今はあまり聞かない。技術の
進歩でなくなったのだろう。

アメリカで車で旅行すると、町からすこし離れたあちこちで
FIRE WORKSと書かれた建物を見かける。花火工場である。
アメリカでは、七月四日の独立記念日の前後に各町で花火大会がある。
私の住んでいたウイルメットでも、ミシガン湖畔で花火大会があった。

当日は近隣や親戚の人たちが集まってバーベキューパーティをして、車やバス
で湖畔に向かう。アトラクションを見たり、出店で食べ物、飲み物を求めたり
して、毛布や敷物をしいて思い思いの場所に陣取って花火を見るのである。

私たちのお気に入りのアトラクションは、おじいさん、お父さん、お母さん、
息子の一家四人のバンジョー演奏だった。おじいさんとお母さんの声の素晴ら
しいことと、四つのバンジョーの音に、子供も大人も思わず手拍子足拍子を取
ったり、踊り出すのであった。
毎年始まる前におじいさんは今年も元気で来ているかなと思い、元気に舞台に
登場するとほっとするのだった。五年余のシカゴ生活で、遥か日本の高齢の父
親とダブって見えていたのだろう。

世の東西を問わず、お祝い事やお祭には、人々は花火を上げる。
華やかにぱっと咲いて散る花火、終わった後の物寂しさも含めてそこに人は惹
かれるのだろう。

ブラジルでコーヒー農園に泊まったことがある。夕方から男達が町に買い物に
出た。暗くなって遠くの小高い丘の上でパンパンと音がした。車を走らせなが
ら、パンパンと上げた花火は、月と星明りしかない田舎で、今帰ったぞという
合図であった。家の人たちが「ああ、帰ってきた」といっていた印象深い花火
だった。

  旅のこころもおちついてくる天の川まうへ   山頭火

  こんやはここで、星がちかちかまたたきだした   山頭火

  星が光りすぎる雨が近いさうな   山頭火

  月かげのまんなかをもどる   山頭火

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    著者 佐藤北耀

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