##################################################

      MAIL MAGAZINE  梟雑話

       2002/08/26  [016]

##################################################
 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
##################################################



今年の早来は雨の日のなんと多いこと、地球温暖化の影響らしい。過日、環境
問題専門の大学の先生がTVで言っておられたが、温暖化が進むと北海道の夏
は雨の多いじめじめしたものになるのだそうだ。

5月、6月の乾ききった畑に、雨乞いでもしなければと話していたことが嘘の
ように、7月、8月は雨ばかり、畑仕事がままならぬ。晴れた日の忙しいこと、
我が物顔にはびこる雑草が憎らしい。

1999年の秋から始まった農婦仕事は今やかなり板についてきた。父のダリ
ア園は、全て独自の品種改良で生み出した、父の子供とも言うべき浪漫あふる
る名前の約1万株はあるであろうダリアが、花の色として考えられるあらゆる
色で百花いや萬花繚乱咲いている。こんな花園はめったにあるものではない。
興味のある方は足をお運びください。

今は晴れ間があったら、脇から出ている芽を摘み取る仕事に励んでいるが、取
っても取っても追いつかない。
悲鳴半分、父に私のことは、「お芽かきさん」とよんでと言ったものである。
ダリアが呼んでいるように思えて仕事に励んでいるが、脇芽を摘まれた花はす
っきりとして美しく「ありがとう」と言っているように思えるのだから、父の
ダリキチ(ダリアきちがいの意味)が私に移ってしまったのかもしれない。

さて本題の蝶の話をしましょう。
今年は蝶が少ないように思う。黄アゲハは数匹見ただけ、黒アゲハはまだ見て
いない。紋白蝶、紋黄蝶も少ないしシジミ蝶もセセリ蝶も少ない。

美原の頃の蝶で印象深い思い出は黄アゲハの幼虫を良く見たことだ。
記憶が正しければエゾニュウに沢山ついていた。時々地面を這っていることも
あった幼虫は、緑色に白、黄色、黒の斑点があって触るとオレンジがかった黄
色の角を2本にゅうっと出した。
キャベツには青虫がいて畑には蝶が飛び交っていた。

東京は江戸川区に住むようになって、マンションの植栽のアべリアにはオオス
カシバが沢山いた。4、5歳の頃の次男は虫きちがいで、ある日オオスカシバ
の黒っぽい幼虫を沢山捕って来て、可愛い可愛いと頬ずりしていたのには驚か
された。敷地内の小さな山椒の木には黄アゲハの幼虫が沢山いた。

ブラジルでは、今は乱獲で少なくなって規制されたらしいが、蝶の羽を重ねて
美しい図柄にした額用の飾り絵(?)が、土産物として売られていた。
1枚作るのに何百匹の蝶が使われていたのか、どの店にも沢山あったから残酷
なものであった。貧しい人達は蝶を捕まえて売ってお金にしていたと言う。
ブラジルの蝶は色鮮やかなものから地味なもの、大きなものから小さなものと
どれほどの種類があるのだろう。
青系統のメタリック調の玉虫色のモルフォ蝶は、形も大きくて非常に美しく、
図柄の中央部に置かれていた。

ブラジル、アルゼンチン、パラグァイの3国の国境にあるフォス・ド・イグア
ス(イグアスの滝)を訪れたことがあるが、世界一の滝へは草や木が両側に生
い茂る坂道を下っていくのだがそこで見た乱舞する色とりどりの蝶は美しかっ
た。そして滝にかかる虹と蝶とこんな美しい風景は初めて目にするものだった。
町ではめったに見ない蝶も田舎へ来るとこんなにいる。ましてアマゾンなどに
はどれほどいるのか、蝶を使った土産物があれほどあることになるほどと思っ
たのである。25年程前の話である。

シカゴでは住宅街で蝶を見ることはまずなかった。あれだけ緑の多い湖近くで
も見なかった。芝生を大切にして雑草の生えないように薬を散布するからだろ
うか。
ミシガン湖畔でまれに見た蝶は、渡りの途中で力尽きて弱ったものか、力尽き
て水に落ちて打ち寄せられた死骸だった。
ある日散歩をしていて、ああ蝶だと近寄ると、打ち上げられた藻に止まってい
る蝶は強い風に揺れていた。手にとって両手にはさんで息を吹きかけて暖めて
やると、暫らくして動き出しやがてふらふらと飛んでいった。

   藻にとまる秋蝶風のなすがまま  北耀

家に戻ってすぐに、知り合いの方の幼い女のお子さんが病気で亡くなったとい
う知らせを受けた。利発で可愛かったその子は、ご両親やお世話になったベビ
ーシッターの方に「ありがとう」「ごめんね」と言って亡くなったそうで、悲
しみは一層深かった。
悲しい思い出の蝶と句は蝶の絵をいれた書として残っている。

山頭火の蝶の句は沢山ある。私の好きな句を紹介します。

  花いちりん風がてふてふをとまらせない  山頭火

  てふてふひらひらいらかをこえた  山頭火

  蝶々とまらう枯すすきうごくまいぞ  山頭火

  からりと晴れて韮の花にもてふてふ  山頭火

  地べたとぶてふてふとなり秋風  山頭火

  それは死の前のてふてふの舞  山頭火



###################################

    著者 佐藤北耀

###################################