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      MAIL MAGAZINE  梟雑話

       2002/09/02  [017]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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次男が狭いアパートで兎を飼っているという。大きくならないと言うことで買
って来たようだが、大分大きくなってきたようだ。

この子の動物好きは小さい頃から大変なもので、いつのまにか飼育係にされて
しまった私は、マンションのヴェランダに目隠しのために簾を張りまわしたり、
隣りと共用の排水口へ怪しい水が流れていかないように工夫したり苦労した。
昆虫はもちろんのことミドリガメ、ヤドカリ、ウシガエル、蟹、熱帯魚、金魚、
ザリガニ、ハムスター、アヒル、カルガモ、蛇、兎、十姉妹、キンカチョウ、
セキセイインコ、ブンチョウなど小遣いで買っってきたり、池や田んぼでとっ
て来たり拾ってきたり・・・、いくつお墓を作って涙を流したことか。

ウシガエルは水槽に入れて家の中で飼っていたが逃げてしまい、押入れの中ま
で探したが見当たらず外へ逃げたかと思っていたら、数週間後に風呂場にひょ
ろひょろと現れた。長いこと浴槽の下に隠れていたようで痩せていた。大阪で
は蛇が逃げ出して隣りのヴェランダにいて大騒ぎになったりした。

小学校3年東京江戸川区に住んでいた頃、近くの公園で誰かが逃がしたか、飼
えなくなって放したか一匹のめす兎を拾ってきた。組み立て式の飼育ケージを
求めてヴェランダで飼いはじめた。
ある日同級生の女の子が飼っている兎と交尾させてきた。30日前後で出産だ
と言う。

「母さんそろそろ生まれるかもしれないから、産む場所を作って」と言うので、
ケージの隅に少し床を高くして、古毛布で囲って暗くして産床を二人で作った。
翌朝兎は5匹の子を産んでいた。
兎は自分の腹の毛を抜いてふかふかの産床を作り、裸同然で生まれてきた子を
抱いていたのである。痛々しいほどの小さい子と腹部の毛のない母兎とを目の
当りにして子供たちと感激した。

すくすくと育って毛も生え揃って大きくなってきて、連日入れ替わり立ち代り
友達が見に来た。なかには欲しいからお母さんに聞いてくると言う子もいたが
みんなノーと言われたようだった。
数ヶ月して大阪に転勤になった。兎は連れて行けないといったが、お気に入り
の1匹だけはどうしても連れて行くという。兎料金で新幹線に乗せて連れてき
た子兎は結構長生きした。
親と4匹の子兎の貰い手を探すのに苦労したが、ケージ付きを条件に卒園した
幼稚園に引き取ってもらった。

1994年春シカゴに転勤になり郊外の町にすんだ。7ヶ月程住んだ最初の家
の庭の木の根元に兎が穴を掘って子を産んだ。写真が沢山残っているが重なり
合って穴から顔を出している子兎たちのなんと可愛かったことか、野生のもの
に手を出してはいけないと思いつつ、人参、キャベツなどを穴の前にそっと置
いて手なづけようとした。ある日1匹の子を触ることが出来たが、それがいけ
なかった。翌日親子はもうその穴にはいなかった。後悔したが後の祭りだった。
家々の芝生に時々兎を見かけたが、誰も追いかけたりいたずらしたりしないの
で人間と野生動物がごく自然に生活しているのだった。

一番身近な動物は尻尾のふさふさした大型のリスsquirrelである。いたるとこ
ろにいる。樹にはもちろん塀の上、電線、電話線どんなところも伝い歩く。
リスがかじって断線して、電話が通じなくなったりTVが写らなくなったりと
いうこともあった。恋の季節は樹から樹へ追いかけ合うのの早いこと早いこと。
初めは見るのがいやだったけれど、車を運転しているとあちこちで轢かれたリ
スを見た。車社会の一番の犠牲者だ。

湖畔の芝生には背中に縞のある小さなリスチップマンクがいて、穴から顔を出
していた。
アライグマは獰猛な動物でどんな所にも登り、家では親子4匹がポーチの屋根
裏に入り込んで鳥を捕まえて食べたり、時々ギャ−ギャ−と喧嘩をしていたり、
垂れ流す糞尿も迷惑なもので漫画のラスカルのように可愛いものではなかった。

スカンクも身近にいる動物で、めったに見ることはなかったが、時々漂ってく
る匂いでその辺にいるなとわかる。5年ほどの間にスカンクは確実に減ってき
たように思った。あのいがらっぽい臭いが少なくなってたまに臭いがすると、
ああスカンクがまだこの辺にいると嬉しくなったものだ。

自然保護林には鹿がいて近くの家の芝生に来ることも珍しくなかった。車で旅
行するとはねられた鹿が道端に転がっているのを良く見かけたものである。
農業地帯では鹿による作物の被害が深刻のようだった。

  酔うて闇夜の蟇ふむまいぞ  山頭火

  水たたへればおよぐ蟇  山頭火

  更けると澄みわたる月の狐鳴く  山頭火

  シカゴで狐は見なかったが山頭火には動物の句があまりありません。


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    著者 佐藤北耀

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