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      MAIL MAGAZINE  梟雑話

       2002/09/09  [018]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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きのこ

「母さん、これとってきたよ。学校の先生が一番うまいキノコと言っていたも
のだと思うよ」・・町外れにある自然保護林(FOREST PRESERVE)にサイクリ
ングに行って来た三男が、ビニールの買い物袋に一杯キノコを採って来た。

初めて見るキノコである。アミガサタケ(MOREL)・・名前は聞いたことはあ
るが、見たことのないキノコである。
10cm余の絵に描いたような姿のキノコである。白い太目の茎で、頭部は先の
丸い円錐形で全体が黄土色がかった薄茶色で、くっきりとした縦長の大きな網
目模様がある。

「毒キノコじゃないの。こんな色、形で」と、恐る恐る触ってみた。
なんとも軽い。匂いは悪くない。
「先生が、ソテーして食べるとこんなに美味しいものはないと言っていたよ」
「本当にこれに間違いないの」 「だと思うよ」・・キノコと付き合いは長いが、
「知らないものは食べるな」と毒キノコの恐ろしさも充分教え込まれていた私
には疑念が尽きない。

半分に割ってみて驚いた。中が空洞なのである。どうりで軽いはずだ。
そしてゴムかやわらかいプラスティックのようなこの感触は、不思議を通り越
して無気味にさえ思えた。シカゴにはキノコの本は持ってきていなかった。
「炒めて食べてみようよ」と言う息子に、私は「ノー」と言って捨ててしまった。

帰国後キノコの本で調べたら息子の言っていた通りであった。
今思っても食べてみなかったことの残念なのと、息子に悪いことをしたと思っ
ている。日本でならそんなに美味しいものであればどこかで必ず売っている。
あんなに森で採れるのならましてのこと、だがスーパーマーケットでも見たこ
とはなかった。

洋の東西を問わず人はキノコが大好きなようだ。
アメリカのスーパーマーケットで山と積んで売られているのは、スープに炒め
物にカレーにバーベキューに美味しい、あの白いころんとしたマッシュルーム
である。アメリカ人は殆どの野菜を生で食べるがマッシュルームもスライスし
てサラダに入れて食べる。

余談だがピーマン、たまねぎ、ブロッコリーも生のまま厚くスライスしてサラ
ダにのせてある。薄切りならともかくとても食べられない。もやしも生で食べ
る。

値段は高いがこげ茶色がかった茶色のポルトベッラと言う肉厚の大きなキノコ
は、カレー、シチューはじめリゾットに入れるととても美味しい。バーベキュ
ーなどで焼いて大根おろし醤油で食べるのは日本人にとって格別の味だった。
夏季に各町で毎週土曜日に開かれるファーマーズマーケットで見つけると必ず
買ったものである。

スーパーマーケットでパックで売られているものは、シメジ(ひらたけ)、ホ
ンシメジ、エノキタケ、名前はわからぬが黄色い小さなキノコ、そして別格で
高価なのはSHIITAKE・・そう椎茸であった。

中華料理にはフクロタケと椎茸が入っていたが、フクロタケは缶詰で売られて
おり、椎茸は乾燥したものを戻して使っていた。
イタリア人はポルチィーニと言う香りの強いキノコを好むようで、乾燥したも
のが売られていたが、非常に高価なものだった。

  咲いて萩の一枝に風がある  山頭火

  秋はうれしい朝の山々  山頭火

  秋風の石を拾ふ  山頭火

  おもひだしては降るよな雨の涼しうなる  山頭火


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    著者 佐藤北耀

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