##################################################

      MAIL MAGAZINE  梟雑話

       2002/09/16  [019]

##################################################
 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
##################################################

きのこ 2

前回もキノコのことを書いたが、今回もキノコです。

私が初めて野生のキノコと出会ったのは小学1年生、札幌は平岸である。
家の近くに土木試験場があり大きな原っぱがありました。
豊平川に注ぐちいさな川が流れており、堤防の手前で水門のついた池になって
そこには川エビや小魚が沢山おりました。小さな川エビはながい髭(触角)を
つけて美しく透き通る体で泳いでおりました。
この川の上流には水産孵化場があって、大雨が降って溢れると鯉や鮒も水と一
緒に流れてくるのでありました。

その川渕の草むらにササクレヒトヨタケが生えておりました。マキグチユウコ
ちゃんと摘んだと記憶しています。ササクレヒトヨタケは小さいうちは可愛ら
しい形の匂いのよい美味しいキノコですが、inky capの名の通り大きくなると
傘の縁からインクのように黒くなってドロドロ溶けていくのです。

さてなんと言っても私とキノコの本格的な出会いは、あの尻別岳の裾野の美原
でした。枯葉の下からチョイとのぞいたあの白くて大きいキノコは、今でもあ
りありと目に浮かびます。
シロマツタケと呼んでいたそれは正式名はモミタケと言うのです。
農場の周りにきちんと区画されて植えられていたドイツトウヒの若木の林に秋
になるとこのキノコが出るのです。

このキノコのなんと立派なこと、小さい時はマツタケを少しずんぐりさせて太
めにしたような形で、大きくなって傘が開くと直径20センチ位にもなるのです。
大きなものには虫が入るのですが、塩水につけておくと虫は皆出てくるのです。
厚めに切って七厘で網焼きにするとなんともいい匂いがして、さっと醤油をか
けて食べるとそのさくさくした歯ざわりで美味しさが一層増すのでした。

初めは父についていったキノコ採りでしたがすっかり虜になってしまい、学校
が終わると上級生のノブちゃんと林にキノコ採りに行くのでした。
昨日あのへんで採ったと思った辺りを用心深く探すと、落ち葉を持ち上げて白
いものが覗いています。採り残されて大きくなったものは傘を開いています。
長靴を履いて手拭を首に巻いて風呂敷をかぶって腰を曲げて、立派なキノコ狩
りスタイルです。

沢山採れると、母はさっと湯がいて味噌漬けにしてお正月のご馳走に貯蔵して
おくのです。その後このキノコの事は人づてに知られて、外部からも採りに来
るようになったのと、木々も老いてきて今は姿を消してしまったようです。

ムラサキシメジは円をなして生えていて、一つ見つけると面白いように採れま
した。これも美味しいキノコでした。
秋真っ先に目に付くのはハツタケでした。野山探険で放牧場の林を歩くと、中
央が窪んで漏斗状のそれは、緑青のような色を帯びていたので毒キノコと思っ
ていました。

官舎の裏は落葉松の緩やかな丘になっていて、ぬるぬるしたラクヨウタケ(ハ
ナイグチ)が、針のような落葉松の落ち葉の上に頭にも針の落ち葉を載せて沢
山生えておりました。
「キノコのおつゆにするから採ってきて」と母に言われてよく採りに行ったも
のです。傘の裏はきめの細かい黄色いスポンジ状で、よく洗って茹でて味噌汁
に入れると、つるつるしこしこ食感のよいもので、みんなの好物でした。

学校の木の門柱に生えたスギタケは、食べませんでしたが美味しそうな匂いで
した。
倒木についていた大きな扁平のキノコはマツオオジというのだそうだ。
踏むと煙のような胞子が飛び出るホコリタケ(キツネノチャブクロ)が、若い
のは食用になると本に書いてあったのでびっくりした。
真中に穴の開いている丸い袋が、星のような皮(?)の上にのっているツチグ
リも踏むとぷーっと胞子が出るのでよく遊んだものだ。
父が山で一度だけマイタケを採ってきたことがあった。

早来の林ではボリボリ(ナラタケ)が採れる。
一昨年立ち枯れの木に、地面から2メートル位の高さまでびっしりとナラタケ
が生えているのをみて興奮した。家にとって返してカメラを持ってきて写真に
収めた。

その数日後別の木の根元に、白いキノコの大きな塊がふわっとあるのを見つけ
た。人の脳のような形で、花びらのような薄い片がくっつきあって、クリーム
色にほんの少し黄土色を混ぜて白っぽくしたような色だった。
父に聞いても解らないので、千歳まで車を飛ばして本を買ってきて調べたら、
こくがあって香りもよく茶碗蒸や澄し汁に美味なハナビラタケというキノコだ
った。これは是非絵にして残しておきたいと、一片一片描いているうちに数日
かかり、干からびてしまって食べずじまいだった。

  しめやかにふりだして松茸のふとる雨  山頭火

  紫苑しみじみ咲きつづく今日このごろとなり  山頭火

  旅のすすきのいつ穂にでたか  山頭火

  萩がすすきがけふのみち  山頭火

  身に触れて萩のこぼるるよ  山頭火


###################################

    著者 佐藤北耀

###################################