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      MAIL MAGAZINE  梟雑話

       2002/09/30  [021]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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数日前の夜はこの秋一番気温が下がった。
寒暖計はミニマムが2.5℃を示していた。

翌朝5時半、目が覚めていつものように窓を開けると、木々の葉はいつもより
白く朝露を置いている。
この二階の窓まで伸び上がったツリバナの木の葉は、上の方から色づき始めて
いる。ぷらぷらぶら下がっている朱桃色の小さな実がはじけて、中から覗いて
いる種様のものの黒赤っぽい色とあいまって美しい。

日が射してくるので急いで身支度を整える。朝露を捉える写真撮影は、太陽の
方を向いて撮ることが多いので、日焼け止めを顔に施してからでないと外に出
られない。
デジカメに一脚を取り付けて、手袋をはめ、首にタオルを巻いて帽子をかぶっ
てでる。

夜気が冷たければ冷たいほどダリア畑は朝露でキラキラ光る。
だが霜が降りるとダリアは一夜にして霜枯れの悲しい姿に変わる。

露の花芯に、まだ充分体温が温まらずにじっとしている花虻がいる。
気持ちが焦るのと疲れ気味の体は前後に左右に揺れてカメラの焦点がなかなか
定まらない。

20枚ほど撮った頃、右手の柏の林が何やら騒がしくなった。
手を止めて耳を澄ますと、ポトリポトリと柏の大きな葉に、上からの朝露の雫
が順々に下へ落ちていく音だ。
もう何日も朝露の写真を撮っているのに初めて聞いたのである。
更に撮り進んでいくと、雫の音はどんどん大きく激しくなって大粒の雨かと思
うほどになった。

突然詩のようなものが浮かんできた。メモしなくては忘れてしまう。カメラを
やめて急いで部屋に引き返して書き留めた。

            **********
   
   ポトリポトリ      
   柏の林で音がします

   ポトリポトリポトリ
   音はますます大きくなるのです

   ポトリポトリ ポトリポトリ
   どうしたの どうしたの

   昨夜の寒さの中で
   蕗の下の長老が
   すっかり虫に喰われた葉の下で
   命を終えたのです

   ポトリポトリ ポトリポトリ
   そうだったの そうだったの

   私を朝早く起こしたのは
   あなたたちだったのね

   ポトリポトリが激しくなって
   ザーザーになりました

   赤と白のダリアの間に
   小さいけれど完璧な蜘蛛の巣が
   涙を集めてかかっておりました

   ザーザー林を過ぎると
   ポトリポトリポトリ
   涙は少し減りました

   萬本のダリアは
   蕾に花弁に
   朽ちた花に
   葉に茎に
   涙を浮かべておりました

   朝陽が強くなってきて
   花の間の小径には
   白い蒸気がフワフワ
   立ち昇っています

   フワフワモクモク
   ずっと向こうの花たちの上には
   霞が棚引いておりました
   土たちの涙です

   忘れないは
   あなたたちの優しい涙を

   私はみんな写し撮ったから
  
   ポトリポトリ
   朝陽は背中に暖かい

   ポトリ ポトリ
   ポトリ
   ・・・・・・・・・
                北耀

            **********



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    著者 佐藤北耀

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