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      MAIL MAGAZINE  梟雑話

       2002/10/07  [022]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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紅葉

この一週間ほど家からあまり出ていなかった。
買い物に近くの町まで出かけてびっくりした。
道路わきの雑木林はもう秋色に染まり始めていた。日の当たる所は黄やら赤や
ら葉がすっかり色づいている。

秋だ秋だ・・・・すすきは穂を出して萩は黄、黄土色に色づいていて、セイタ
カアワダチソウの黄色の波に、野菊は藤色、紫、濃紫、濃桃色と鮮やかに色を
添えて美しい。
木の葉はまだ緑が多いが鮮やかな赤、朱、くすんだ赤、黒っぽい赤、黄色、そ
してまるで若葉のような緑色も。
「ああ、こんな中でなら死んでもいい」と思うようになったのは何時からだろ
う。

色とりどりに黄、紅葉する広葉樹に針葉樹のEVER GREENが混在して、秋は色の
魔法使いだ。
それぞれに役目を果たした木の葉に、枯れ落ちる前にこのような美しい色を神
様(?)はどういう気持ちで与えられたのだろう。
科学的に枯れるという事はと説明されても耳を貸したくはない。

シカゴの紅葉も素晴らしかった。
私のいた町も湖が近くなるにつれて緑は深く、街路樹は何百年の大木ばかり、
楓や紅葉、コットンウッド、ドッグウッド、甘い匂いの実をつける赤く染まる
木、銀杏の大木、その栗に似た実をリスが運んで芝生に埋めて、思わぬところ
から芽を出す美しい花の咲くマロニエの大木。

風が強い日は落ち葉が路上でダンスする。あっちでもこっちでも渦になったり
吹き寄せたり。車が通るとダンスは益々調子を上げる。

歩道は大きい葉小さい葉、様々な形の落ち葉で埋まる。さくさく、ざくざく落
ち葉の上を歩く。
あまりにも美しい色に思わず手が伸びて、次々と葉を拾い重ね合わせていくと
美しい花束ならぬ葉束が出来る。

こんな物を毎日見ていると何にもいらなくなる。
どんなに高価な服を着ても宝石をつけても、どんなに化粧しても自然の美しさ
にはかなわない。素のままでいい。山頭火の句の世界に入っていく。

山頭火のドロドロした人間的な部分や、酒に呑まれる姿や句は必ずしも好感の
持てるものではないが、自責の念にかられて思いを新たにして、澄んだ心境に
なったときの山頭火の句は素晴らしい。
人間誰しも清濁併せもっている。全部含めた素のままでいい。他人を傷つける
ような言動は別だが。

この自然の美しさを絵にしたいと、シカゴ時代から水彩色鉛筆を使って描き始
めた。
初めの頃のものは何とも下手なものだった。
何とか花の草の葉の色を紙の上に忠実に描き写したい、ただそれだけだった。

黒っぽい赤紫の楓の葉を書き上げたときは、自分でも「そうそうその色」と感
激した。小さな一枚の葉ではあったが複雑な色の奥行きがでた。
だが悲しいかな、一枚出来たから次のもうまくといくとは限らず、試行錯誤の
連続である。

今は何かと忙しくて落ち着いて集中出来ないこともあるのだが、美しい落ち葉
を拾ってきても机の上で虚しく枯らしている。
せめて写真にでもと思って撮っては見るが、なかなか同じ色にはならないし、
写真は写真である。

燃えるような朱赤の葉っぱさん、どうしてそんな色に変われるの。


  秋はいちはやく山の櫨を染め  山頭火

  近道は蓼がいちはやくもみづりて  山頭火

  朝まゐりはわたくし一人の銀杏ちりしく  山頭火

  山の紅葉へ胸いつぱいの声  山頭火

  なんとまつかにもみづりて何の木  山頭火

  落葉うづたかく御仏ゐます  山頭火

  なんぼう考へてもおんなじことの落葉ふみあるく  山頭火

(前号の蕗の下の長老とはアイヌ伝説のコロポックルをイメージしたもの
 です。ホームページに秋の句、詩の表装作品を追加しましたのでご覧く
 ださい。)


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    著者 佐藤北耀

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