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      MAIL MAGAZINE  梟雑話

       2002/10/14  [023]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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秋の虫

駅の側の地下道でころころコオロギが鳴いている。コンクリートだけの地下道
であるが、上の道端の叢からきたのであろう。

北海道ではたまに聞く位だったコオロギが、ここでは道の端々で鳴いている。
取手から30分の息子の古びたアパートに泊まったが、蒸し暑いことも有って
少し開けた窓の外は、リーリーリー、コロコロコロ絶え間ない声は耳鳴りのよ
うに響いて虫の大合唱である。

部屋の中に何か動くものがいるので良く見たらコオロギであった。
「夜中に鳴いてくれるといいね」と言ったら、一度風呂場に迷い込んできたの
が鳴いて、うるさくて大変だったと言う。
残念なことにこの1匹は卵管を持った雌だった。

小学生の頃、虫の声と言う歌を習って、マツムシのチンチロチンチロチンチロ
リン、鈴虫のリンリンリンリンリーンリン、コオロギのキリキリキーリキリ、
クツワムシのガチャガチャガチャガチャ、ウマオイのチョンチョンチョンチョ
ンスイッチョン・・・に実物を見てその鳴き声を確かめたいと思ったものだ。
コオロギと鈴虫とキリギリスは確認したが他の虫は未だしである。

子供の小さかった頃、叢に忍者よろしくキリギリスを追ったがすばやくてなか
なか捕まえられなかった。たまに捕まえてもその強靭な歯でかじられたことも
ある。声のする辺りの石を持ち上げるとコオロギは簡単に見つけることができ
た。殆どがエンマコオロギでたまにミツカドコオロギも見ることが出来た。

最近虫取り網と虫かごを持った子供の姿を見ることが少なくなった。
子供たちには道端、叢、公園の小石の下、木の幹、葉っぱ、水溜りなど身近な
ところにも小さな命が息づいていることを目にし手にしてもらいたいと思う。
可愛い美しい虫は沢山いるし、気持ち悪そうな、怖そうな、汚そうなのもいる
が、よく見るとみんな可愛い顔をしている。
シカゴでは網もかごも売られているのを見たことがなかった。

美原にはカマキリはいなかったように思う。
大阪、東京、千葉と引っ越した先ではカマキリは沢山見かけた。
オオカマキリ、コカマキリ、ハラビロカマキリ、チョウセンカマキリ、中の子
は昆虫が好きで何でも捕まえてきた。

ある日枝に産み付けられていたオオカマキリの立派な卵の鞘を見つけて
持ってきた。
からからに乾燥したように見えたその鞘の中で、卵は着々と孵化のときを待っ
ていたようで、初夏の頃初めはフケかと思うようなほぐれかたをして、すぐに
小さな小さなカマキリがその巣からモクモクと湧いて出て来た。

透き通るような白さの5mmほどのそれらは、よくみると一匹一匹がちゃんと
カマを持って親と同じ姿なのであった。当たり前のことなのだろうが驚いたも
のだった。

その頃のTVで「みなしごハッチ」と言う、虫たちの特徴を良く捉えたキャラ
クターの漫画番組があって、欠かさず見ていたものだ。涙ぐんでみていたのは
私であった。

シカゴでは蛍がたまにしか光らなくなる頃、ナナカマドの実が赤く色づき始め
て虫の音が聞こえるようになる。
そしてあちこちにある園芸店、スーパーマーケットの前には山のように、気の
早い人の家の前にもハロウィンのかぼちゃがゴロゴロ並ぶようになる。

     蛍二つ三つ虫の音の夕べとなる  北耀
     窓いっぱいの虫の音       北耀


  こほろぎよあすの米だけはある  山頭火

  かまきりがすいっちょが月が寝床まで  山頭火

  秋風の、腹立ててゐるかまきりで  山頭火

  産んだまま死んでゐるかよかまきりよ  山頭火

  ふるさとの土の底から鉦たたき  山頭火

  がちゃがちゃがちゃがちゃ鳴くよりほかない  山頭火



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    著者 佐藤北耀

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