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      MAIL MAGAZINE  梟雑話

       2002/10/21  [024]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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菊いも

シカゴの秋のある日、いつもと違う道を車で走っていると、左手に黄色い背の
高い花が沢山咲いているのが見えた。
こんな住宅街になんだろうと思って車を回して行ってみた。
とある家の裏路地の塀の外に、色鮮やかな黄色のその花は、毎年枯れては咲き
枯れては咲きして、堆肥の山状になったところに、長年の歴史を物語るように
こんもりと茂っていた。

珍しいのとあまりにも綺麗なので、カメラを取りに戻って何枚も撮った。
次の朝、画用紙を持って絵を描きにいった。
向日葵を小さくしたようなその花を、四苦八苦して何とかデッサンし終わった
頃、その家のご主人が犬を連れて出て来られた。
散歩と言う風体だが、家の中からは見えていたようで、車を停めて長いこと何
かをしている私を偵察に来たようだった。

ハローと挨拶すると、何をしているのかと尋ねられた。
昨日この花を見つけて、あまりにも綺麗だったので絵を描きに来たと言うと、
花の説明をしてくれた。
Jerusalem Artichokeといって、霜が降りた後土中にある根が美味しくなるの
だと教えてくれた。
家に戻ってジェルサレムアーティチョークを辞書で引いたら「菊いも」とあっ
た。

なんだか聞いたことがあるなと考えていたら、昔美原の頃、母が菊いもの味噌
漬けを作っていたのを思い出した。
漬ける前のいもの状態は記憶にないけれど、漬けあがったそれは飴色になって、
コリコリカリカリした歯ごたえのよい、ちょっと香りのある美味しい漬物だっ
た。

広辞苑で見ると、キク科の多年草で向日葵に似るが、全体小形で黄色の頭花は
約4cm。北米原産。
明治初年に日本に導入されたが、現在は各地で野生化して、地下の塊茎はイヌ
リンを主成分とし、食用、またはアルコールや果糖製造の原料とある。

後年植物に詳しい父に話したら、英名も知っており広辞苑と同じようなことを
言っていた。

私は原産地で菊いもを見たのだった。
そして思いがけないところで、漬物上手だった母とその味を思い出したのであ
る。

  ふつと影がかすめていった風  山頭火

  物思ふ雲のかたちのいつかかはつて  山頭火

  秋空ただよふ雲の一人となる  山頭火

  ぼんやりしてそこから秋めいた風  山頭火


             * * * * *             

 19日夜から20日朝の間に霜が降りてダリアは全滅したと言う。子供のと
ころに来ていて居合わせることが出来なかったが、その終わりの朝の痛ましさ
凄まじさは一昨年体験した。夕べは寒かったなと思って障子を開けると、昨日
まで色とりどりに咲いていた畑が汚い茶色に一変していたのである。思い切り
が良いと言えばそうだが、初めて目にして大きなショックであった。来週から
は球根を掘り上げて室にしまう少々きつい作業が始まります。

     無惨やな一夜にて果つ花ダリア  北耀
     霜の朝面影もなく花ダリア  北耀

 デジカメを始めて一年余りたちました。花を虫を風景を追いかけて面白くな
ってきたところです。写真に一筆を添えてホームページに載せていきたいと思
います。是非ご覧ください。



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    著者 佐藤北耀

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