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      MAIL MAGAZINE  梟雑話

       2002/10/28  [025]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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HALLOWEEN

苫小牧行きのフェリーサンフラワー丸のエントランスホールに大きなカボチャ
と大き目のペポカボチャが収穫祭と銘打って飾られていた。

"Trick or Treat"、ドアをノックする音。
「あ、来た来た。」
1994年10月31日初めてのハロウィンは、午後から風の強い雨降りのあ
いにくの天気になった。

アメリカの習慣にならって、玄関前には目鼻口をくりぬいて子供たちが作った
大きなカボチャのランタンにロウソクを灯してある。
大きめのかごにはキャンディー、クッキー、血管の浮き出た目玉の形に作られ
たグロテスクなチョコレート、どぎつい色のミミズやムカデ風のWORMをかたど
ったグミ菓子などといっしょに、細く巻いた1ドル札を10本ほどいれてある
(これは中の子が友達から聞いてきて用意した)。

小さい子はこの悪天候で来なかったが、7時半ごろ高校生の男の子が来た。
黒っぽい服装だったがたいした扮装はしていなかった。
1ドル札を見て"エーいいんですか"とびっくりしていたようで、1ドルとお菓
子を持っていった。
お金に関しては、その後来た小、中学生も遠慮がちに持っていく子やお菓子だ
けを持っていく子と反応は以外だったので翌年からは取りやめることにした。

95年からは湖近くに引っ越したこともあって、4時半頃からお父さんお母さ
んに連れられて、よちよち歩きの子や幼稚園、小学校低学年の子がたくさん来
た。
なかには「これが初めてのハロウィンです」と言って、抱っこした子に
「Trick or Treatと言ってごらん」「Thank youは」と教えているお母さんも
いた。

お菓子のほかに、小さな文化交流と思って折り紙を折ってあげることにした。
鶴(crane)はむこうでも日本の折り紙の代名詞のようで、「crane知ってるよ」
「origami幼稚園で折ったことがあるよ」と言っている子もいた。
小さい子の親が、この折り紙をとっても喜んで、大事そうに持っていくのは嬉
しかった。

男の子に好評だったのは、ちょっと難しい折の蛙で、お尻のあたりをはじくと
ピョント跳ねるもので、「あなたが作ったの。上手だね」と誉めてくれる子も
いた。
気を良くして年々凝って、ハロウィンの前は一番下の子にも協力してもらって
せっせと折り紙を折るのに忙しかった。
ふくら雀、サンタクロース、蝉、風船、などなど。

顔馴染のお母さんもできて、毎年折り紙を楽しみにしてくれるようになった。
97年にはカザグルマを作った。
普通サイズの折り紙を1/4にカットして、無地と和風模様の紙を重ねて、ス
トロウを2、3mmにカットしたもの、ビーズを使って竹ひごに待ち針を短く
カットしたものでつけると、小さな可愛らしい本当に回る風車が出来た。
これは皆に大好評だった。

98年は翌年帰国することがわかっていたので、お別れの意味もこめて、和風
の折り紙と黒の折り紙を重ねて美しい小物入れの箱を作った。
毎年来てくれる子のお母さんに、「来年帰国するのでこれが最後です」と言っ
たら残念がってくれた。
去年は風車を貰って、その前は茶色の鶴を貰ったと娘さんと口をそろえて言っ
てくれたのには、そこまで覚えていてくれたのかとこちらの方が驚いた。

"Trick or Treat"は、「お菓子をくれないと悪戯するよ」のような意味で、
以前書いたが、子供の頃の七夕のロウソクを貰い歩くときのはやし言葉と似た
ようなものだと思った。
カボチャをおいてある家だけを訪れることが出来て、カボチャがあるのに留守
にしている家には、悪戯をしても良いのだそうで、知り合いがカボチャを置い
たまま旅行に出たら家のドアに生卵が投げつけられていたそうだ。

町の公報には、訪問時間の開始と終了(3時半から9時まで)の厳守、小さい
子には親やベビーシッターの同伴、また手作りのお菓子は貰わないこと、食べ
る前には安全かどうか親が必ずチェックすることなどが明記されている。
小学生高学年以上の子供たちは、半年分はあるのではないかと思うほどのお菓
子をズタブクロに集めるのである。

扮装は、小さい子供達は動物のぬいぐるみを着たり、バレリーナのような格好
だったり、顔に動物のメイクをして耳付きの帽子を被ったりしている。
少し大きな男の子は無気味なゴム製のすっぽり被るお面をつけていたり、海賊
風であったり、引きずるような衣装の黒装束で三角にとがった頭巾のようなも
のを被り髑髏の面をつけて鎌を持って死神に扮している子もいる。魔女もいる。

お父さんが扮装していることはないが、お母さんは魔女の扮装をしている人や
ミュージカルキャツの猫のメイクをしている人がたまにいて、みんなで今はお
祭となったハロウィンを楽しんでいるようだった。

一月くらいも前から、悪戯好きの人は色々趣向を凝らして車や庭に細工をする。
スーパーで停めてある車のトランクから、片足が出ているのでびっくりしてい
たら持ち主がやってきて、カートを片付けている店員に「この仕掛けはいいで
しょう」と、大きな声で笑っていたのに出くわしたことがあった。
庭の植木に蜘蛛の巣のような網をかけて、首の無い人形を置いて、夜照明を当
てている家もあった。

友達に聞いた話だが、毎年凝った仕掛けで訪問者を楽しませる家があって、薄
暗いガレージに死者の人形を収めた棺が置いてあり、ガレージの中には
腐った魚、肉のほか気味の悪い物がたくさんおいてある。
帰りかかると、入り口の椅子に座って首を垂れて、微動だにしなかった人形に
見えていたおじいさんが、やおら動き出して声を出して、友達と娘さんと居合
わせた人は度肝を抜かれたそうである。 

ハロウィンは10月31日を一年の終わりとする古代ケルト暦の新年と冬を迎
える祭で、死者の霊が親族を訪れる夜とされている。
作物や家畜に被害をもたらしたり、子供をさらったりする悪霊も横行するので、
火を焚いて霊を導き悪霊を払うことが始まりで、アイルランド人によってアメ
リカにもたらされたそうである。

今は収穫の祝いと冬に備えて悪霊を追い出す祭になっている。
カボチャのランタンはシャレコウベと焚き火の名残りで、お菓子を貰い歩くの
は、祭り用の食料をもらい歩く中世の農民を真似たものだそうだ。

ハロウィンが終わると気の早い人はクリスマスの飾り付けを始め、日に日に色
とりどりの電飾が増えて町の夜は美しくなってゆく。

  焚火よく燃える郷のことおもふ  山頭火

  あかあかと火を焚く人のなつかしや  山頭火

  闇の奥には火が燃えて凸凹の道  山頭火

  一葉落つればまた一葉落つ地のしづか  山頭火

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    著者 佐藤北耀

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