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      MAIL MAGAZINE  梟雑話
       2002/11/18  [028]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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映画

初めて映画を見たのは美原である。昭和27、8年頃だったと思う。
東映や松竹映画が盛んだった頃である。時代劇(その頃はチャンバラと言って
いた)は大河内伝次郎、嵐寛寿郎、月形竜之介、大友柳太郎、片岡千恵蔵、東
千代之介、中村錦之助、伏見扇太郎、などの役者がいて、パッチ(メンコのこ
と)に彼ら役者の絵が描いてあった。大小色々の役者のパッチを大事にして勝
負をしていた。

何もない片田舎の唯一の娯楽は何カ月おきだったか忘れたが、巡回してくる東
映と松竹の二本立て映画だった。

小学校がにわか映画館になり、農場の人びとは夕食後、ゴザや座布団などの敷
物を各自持ってこぞって学校につめかけた。
何処をどう回ってきたのか、一体なんべん回したフィルムなのか画面は雨降り
状態のことが多く、所々切れてつないだのが変に画面がとんだりする事もあっ
たが、みんなにとってこんな楽しみなものはなかった。

時代劇は勧善懲悪物で、終わりは十手を持ったお役人が「御用だ御用だ」と駆
けつけて悪者(私達は悪どもと言っていた)が捕まって「めでたしめでたし」
であった。「御用だ御用だ」と十手と御用提灯を持って役人が走ってくると拍
手が沸くのであったからみんな純情だった。
杉作少年の出る鞍馬天狗や桜吹雪が背中に彫ってある大岡越前、大菩薩峠など
記憶にある。
私たちも棒切れを持ってチャンバラごっこをよくやったものだ。

松竹映画は恋愛物が多く、子供たちに見せてはいけないような物の時は、先に
帰らせられた。高学年になると見ることが許されたのか、佐田啓二、岸恵子の
「君の名は」を見たことを覚えている。月丘夢路(だったと思うのだが)主演
の中條文子をモデルにした「乳房よ永遠なれ」を見て感動した。
ほかに高橋貞二、大木実、石浜朗、佐野周二、高峰秀子などの俳優がいたよう
に記憶している。
「伊豆の踊り子」のヒロポンを打つ学帽、マント姿の石浜朗が素敵に見えた。

上映中フィルムが切れることがあり、つなぐときに何コマか切り取るようで、
翌日落ちているフィルムを拾うのが楽しみだった。

夜外を出歩くようなことはめったになかったので、寒の頃、映画の帰りに月の
夜道をキュッキュッと雪踏み鳴らして歩いたこと、凍えるほどの寒さと雪に映
えた青白い月明かりを今でも鮮明に覚えている。気を付けて歩いていても、馬
がぬかって出来た深い穴に脚をとられ、雪が長靴に入ってとても冷たかった。

中学3年の頃父が転勤になって札幌の家に戻ってまもなく、「海底二万マイル」
という映画を見た。どんなストーリーだったか忘れたが、父抜きではあったが
母と兄弟4人揃って映画館に行ったのは後にも先にもこれ一度きりだ。

ブラジルで映画を見にいったことがある。どんな映画だったか忘れたが、映画
館の中は立派だった。映画は決して安い娯楽ではなく満員になるほど客は入っ
ていなかった。

その頃(約25年前)のブラジルはまだまだ衛生状態がよくなくて、バスやタ
クシー、証明写真をとる写真館などでは蚤がついてくることが多いと聞いてい
たが、映画館では貰って来なかった。
バスと写真館で蚤を貰ってきたことがあった。もそもそするので強く服の上か
ら押してこすったら蚤がつぶれていた。

今でもアメリカは映画が盛んだが、駐在中も映画は7ドルほどで見れる大衆の
娯楽だった。話題の映画は何人の入場でどれほどの収益かテレビのニュース番
組で取り上げられるほどだった。
現地校に通っていた子供たちも話題の映画の封切り後はみんなその話に夢中だ
といっていた。

水曜日はお年寄りの割引デーだそうで4ドルで見られるので朝からお年寄りが
映画館に行くと聞いた。
アメリカではケーブルテレビで映画だけを放映しているところがあり、古いも
のから比較的新しいものまでやるのでもっぱらそれを見ていた。

昔はロマンチックなものが主流だったアメリカ映画も、ホラー物や殺人や戦争、
グロテスクなものがどんどん増えるようになっていた。
テレビも同様で子供に見せて問題があるような番組には、残酷な場面、性的描
写などがあるので見せないようにとか、話し合って見るかどうか決めろなどの
警告が流れるが、親が留守がちな家などでは簡単に子供の見るところとなるだ
ろう。これでは子供も含めた犯罪が増えるはずだと思ったものだ。

  をりをり顔みせる月のまんまる  山頭火

  ここにかうしてわたしをおいてゐる冬夜  山頭火

  雪へ足跡もがつちりとゆく  山頭火




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    著者 佐藤北耀

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