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      MAIL MAGAZINE  梟雑話
       2002/11/25  [029]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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漬物

晩秋の風物詩・・・大根の白い簾も今ではあまり見られなくなった。
年中通して野菜が市場に出回るようになったのと、面倒な漬物などつけなくと
も、買いに行けばどんな漬物でも手に入るようになって、漬物人口はどんどん
減ってきているそうだ。

前にも書いたが母は漬物上手だった。
母の家は樺太に漁場を持つ網元だったそうで、祖母は家事万端に優れてい
た人で、縫い物も料理もそして漬物も格別に上手だったと生前何度も聞かされ
た。母が嫁いで来るずいぶん前に亡くなったので、お仏壇の写真でしか知らな
いのが残念である。

昭和20年代、美原ではどの家も皆夏に大根の種をまいて、秋に切り漬け、沢
庵、味噌漬け、粕漬けなどを漬けて長い冬の野菜の保存食としていた。

大根をまく時は耕した畑にすじをつけて、下肥を施して種をまいて土をかけた。
やがて双葉が出て、少し大きくなると間引いて若菜はおひたしにして食べる。
晩秋大きく育った大根を抜いて、家じゅう皆で冷たい水の中でたわしや縄を丸
めたものでごしごし洗って、6本か8本ほどを葉の所で縛って丸太の架にかけ
て干す。夕方にはムシロやゴザをかけて朝取り外して凍らないように面倒を見
て、しなっとするまで干して漬けるのである。

葉を切り落とした大根を縄で上手に編むようにしてつなげて吊るして干すやり
方をする家もある。一冬分の漬物用大根は白い簾のようにずらりとならぶ。
吊るすと言えば本州の軒先に下がる干し柿も映像でしか見ていないが見事なも
のだ。
今頃の日高地方の鵡川や門別などのシシャモを串に刺して干してあるシシャモ
簾も名物である。

母が亡くなって以来、北海道独特のニシン漬けという漬物を口にしたことがな
かった。デパートなどで見かけたことがあるが、高いうえにニシンも一切れ二
切れしか入っていないようで買う気になれなかった。

10月なかすぎにテレビで漬物用の巨大なキャベツが市場にでているニュース
を見て、食べたいと思っていても誰も食べさせてくれるわけじゃなし、今年は
自分で作ってみようと思った。

11月はじめに大きなキャベツを買ってきた。なんと一つで10キログラムも
ある。大根と人参は畑からとってきて、一晩米のとぎ汁に漬けておいた身欠き
ニシンをたわしで洗って酢洗いして、千切り土生姜、鷹のつめ唐辛子、糀、塩
とで漬け込んだ。

2週間目くらいから食べ始めて日に日に味がなれて美味くなってきた。
ああ、これが20年来欲してきたニシン漬けの味。大根も人参も少し大きく切
りすぎたようであるが大満足である。

気をよくして東京の弟と京都の母の妹のおばに送った。おばもやはり何十年ぶ
りかのニシン漬けで、昔母達のお母さんが作ったのと同じ味だと感激して電話
をくれた。

故郷の母の味はみんな恋しいもの。

残り少なくなってきたので、今度は切りかたも工夫してもう一度作ってみよう
と身欠きニシンとスルメを買ってきた。昨日何軒も回ったスーパーで大きなキ
ャベツを見つけることが出来なかったが、今日長沼の道の駅で買うことが出来
た。お正月用に何時漬けたらよいか考えている。

  こころあらためて霜の大根をぬく  山頭火

  大根の大きいの小さいのが霜ばしら  山頭火

  洗へば大根いよいよ白し  山頭火

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    著者 佐藤北耀

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