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      MAIL MAGAZINE  梟雑話
       2002/12/31  [035]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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餅搗き

「くもちはつかぬ」といって、29日を避けて27、8日か30日に餅を搗い
た。たぶん九餅=苦餅=苦持ちなのではないかと思う。

餅つきは前日の米とぎから始まる。大きなざるでザッザッとといで、大きな樽
に入れて水に浸しておく。
繭玉用の赤い餅用に食紅を溶いた水に一臼分別にして浸しておく。
豆餅用に黒豆を水に浸し、春に摘んだ乾燥ヨモギも水で戻しておく。餡餅に入
れる餡も作る。
物置にしまってあった臼、杵、大きな釜、せいろ、餅をのす大きな板、のし棒
も出して用意する。

当日朝、まだ星の残る暗いうちから、毎年お手伝いしてくれる人たちが来てく
れる。私達子どもは眠いのを起こされて、餅つきの日があける。
薪ストーブは勢いよく燃えて、かけられた大釜の湯はぐらぐら沸いている。
狭い玄関の戸をはずして莚を敷いた上に、洗って熱い湯を張った臼が置かれ
て出番を待っている。重い杵、大きなヘラ、水を入れた大きなボウルも用意さ
れている。

四角いセイロには水を切った一臼分のもち米が入れられて、二段重ねで大釜に
のせられる。
蒸しあがるのを待っている間に男衆は酒を一杯ひっかける。
寒いので私達はストーブの周りでわくわくしながら暖を取る。

下の段の蒸し上がった米を湯を捨てた臼にあけるや、もうもうたる湯気の中、
男の人は杵を水につけて捏ね始める。
なかなか力が要るようで、ねじり鉢巻の顔に汗が噴く。
あるていど捏ねると、手返しの女の人が水をつけた大きなヘラでまとめて、く
るっとひっくり返し、水でぬらした手で半搗き状態の餅をピシャリと一発叩い
て、それを合図に搗き始める。

「ソレ」と杵を振り下ろして、「ハイ」と引っ張ったり叩いたり手に水をつけ
ながら手返ししてペッタンペッタン、やがてやわらかい餅がつきあがる。
ずるずる逃げようとする餅を澱粉をふってある板まで運んで来ると、母や父は
アツアツの餅を上手に丸めてまずお供え用の大きな丸餅を作り、台所、勉強机
の上、便所などに置く小さなお供え餅を作る。

何枚も白い伸し餅を作って、赤い伸し餅を作り、ヨモギを入れた草餅、豆餅、
黒砂糖を入れた砂糖餅などはナマコ型にして次々に作る。
餡ころ餅を作るときには、手を良く洗って私達も作らせてもらえた。
粉をつけすぎるとうまくつなぎめがくっ付かず結構難しかったが、自分で作っ
たものは変な出来でも美味しかった。

いったい幾臼搗いたのか、交代しながらとはいえ重労働でへとへとになって昼
過ぎまでかかって餅つきは終わる。労いの宴は夕方まで続いた。

翌日遅くには少し硬くなった餅を包丁で切って、大きな木の林檎箱に新聞紙を
敷いて詰める。
遅くになるとカビが生えるのだが4月頃まで食べるのである。
最初は美味しかった餅もだんだん飽きて、「また餅か」といいながら食べねば
ならなかった。

赤、白の伸し餅の一部を1.5cm位のサイコロ型に切って、山から取ってきた
ミズキの枝先につけて繭玉にして、紙で出来たお多福、小判、宝船、打ち出の
小槌、千両箱、鯛、大福帳など縁起物の飾りをつけて床の間の前に天井から吊
って飾った。
この繭玉は正月があけるととってしまっておき、お雛様の頃油で揚げておやつ
になった。

あの頃、スイッチを入れると餅がつきあがる器具が出来るなんて、誰が考えた
だろう。便利だが味気ない世の中になった。

               ***

  山頭火は昭和15年亡くなる9日前の10月2日遅くに帰庵したが、何処
からともなく付いてきた犬が大きい餅をくわえていて、その犬から餅のご馳走
になった。あまりはどこからともなく出てきた白い猫に供養した。ワン公よ有
難うと日記に書いている、そして餅の絵まで描いてある。
10月7日の日記には、この犬のこともあわせて雑文一篇を書こうと思う、い
くらかでも稿料が貰えたら、ワン公にもニヤン子にも奢ってやろう、むろん私
も飲むよ!と書いている。

  餅二つ、けふのいのち  山頭火

  ひとり焼く餅ひとりでにふくれたる  山頭火

  雪ふる食べるものはあって雪ふる  山頭火

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二日前、想い出深い美原小学校の閉校式の案内が来ました。
羊蹄山を背景に写した小さな小学校の写真が同封されていました。
かって書の恩師があなたの書は大陸的な匂いがするといってくださったように、
私の感性の原点は美原の生活であります。豊かな自然の中の子供時代の色々な
ことが頭を巡ります。
来年5月には取り壊されるとのこと真に寂しい気がします。

今年も終わろうとしています。あっという間の一年でした。
梟雑話を読んでいただきまして有難うございます。
来年もよろしくお願いいたします。
皆様どうぞ良いお年をお迎えください。


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    著者 佐藤北耀

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