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      MAIL MAGAZINE  梟雑話
       2003/01/13  [037]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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美原の雪は凄かった。
なにせ2m近くも積もったのだから、日に日に家は雪の中に埋もれてゆき、家
から外に出るには、雪を削って階段を作って出なければならなかった。

大きなスコップで、父は上手に階段を作った。
昇るとそこが雪の道となるわけである。
吹雪の翌朝は、玄関の戸が開かないくらい、吹き寄せた雪で吹き溜まりが出来
た。

道は日に日に高くなり、父が作った、根曲がり竹(千島笹・・・畑作物の蔓を
絡ませるのに手竹として使う)の直の部分を針金で編み寄せた、30cm角ほ
どの「かんじき」をつけて、毎日のように降る雪を、踏み固めねばならない。

引っ込んだところに有った家から通りまで、かなりの距離があって大変な仕事
だった。
手を腰の後ろに組んで前かがみになって、一歩一歩、ぎゅっぎゅっと踏み固め
ていく。汗だくになった。

窓も埋まってしまうので、明り取りに周囲の雪も除けねばならない。
そんなある日、半分ほど埋まった窓の外の雪の中ほどで、ちょろっと顔を出し
たものがいた。ネズミである。

小さなネズミは、どうやって雪に穴を掘って、ここまで上がってきたのだろう。
ガラスに小さな顔と手をくっ付けるようにして、それは可愛かった。
何か餌をあげたくとも窓は雪で開かない。家族で大騒ぎした。
何年もの雪深い中での生活で初めてで最後の経験だった。

家の屋根はトタンぶきであったので、暖かい日は雪が自然と落ちるのだが、お
ちた雪が軒下にどんどん積もって、屋根と同じくらいの高さになると、屋根に
積もった雪は取り除かねばならない。
スコップで雪を切り取って投げる。フワフワの雪も積もるととても重い。

屋根も雪の一部のようになると、子ども達にとっては楽しい遊び場になる。
天気のよい日は、乾いた屋根の上に寝ころがって日向ぼっこをしたり、本を読
んだ。
天気のよい日が続くと蒲団乾しの場にもなる。
乾した蒲団はお天道様の匂い、今でも幸せを感じる匂いである。

その頃、毎日楽しみにしていた子供向けのラジオ番組に、「笛吹き童子」とい
うのがあった。
福田蘭童の「ヒャラーリヒャラリコ、ヒャラーリヒャラレーロ、誰が吹くのか
不思議な笛・・・・・」が始まると、ラジオの前に張り付き状態だった。
どんなストーリーだったのか覚えていないのが残念だ。

学校で縦笛を習っていた頃で、屋根の上で習った笛を吹き、気分はすっかり
「笛吹き童子」になりきっていた。
ぽかぽか暖かいトタン屋根の上で、真っ青な空に向かって笛を吹くのは、最高
の気分だった。
笛の音はどこまでもどこまでも流れていくようだった。


  雪がふるふる雪見てをれば  山頭火

  雪あした、すこしおくれて郵便やさん最初の足跡つけて来た  山頭火

  とぼしいくらしの屋根の雪とけてしたたる  山頭火

  雪へ雪ふるしづけさにをる  山頭火

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    著者 佐藤北耀

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