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      MAIL MAGAZINE  梟雑話
       2003/01/27  [039]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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雪遊び

日に日に寒さが増して来た晩秋、お尻にフワフワの綿のようなものをつけた淡
いブルーの、その年初めての雪虫を見つけると、思わず「あっ、雪虫だ」とい
までも声が出る。

雪虫を辞書で引くと、カメムシ目ワタアブラムシ科昆虫の一群の俗称と書いて
ある。
北海道で見る雪虫は、椴松(とどまつ)の根に発生するトドノネワタムシなの
だそうである。
あの可愛い雪虫が、私達が「ヘッコキムシ」だの、「ヘッピリムシ」といって
いるあのくさいカメムシの仲間だなんて、なんて失礼なと思ってしまう。

雪虫を見ると、雪が降るときが近づいてきたと初雪の日を心待ちにする。
雲行きが怪しい寒い日、ひらひらと雪片が落ちてくると「あっ、初雪、雪だよ」
と、叫んで暫らく見とれてしまう。
子供の頃からこれはずっと変わらない。

少しでも雪が積もると、「雪だるまを作らなきゃ」という、殆ど義務感のよう
なものを感じて、子ども達が家を離れた数年前まで雪だるまを作っていた。
大阪で、東京で、シカゴで、その年初めて雪が積もった日は、子どもと一緒に
土も草も一緒に丸めて雪だるまを作った。

きれいな雪をはり付けつて、目鼻口をつけできあがると、子どもを横に立たせ
て写真に収めた。
シカゴでは子どもはもう高校生だったので、夜になるのを待って作った。
この執着ぶりは並大抵ではなかった。

美原時代、半年近くは雪との生活だったので、雪遊びの思い出はたくさんある。
雪だるまは少し湿った雪が降った日に作った。
どんどん大きくなっていく雪玉は、もうこれ以上重くて押せないところまで押
していくと、直径1m余りになる。
小さめのをもう一つ作ってなんとかのせて、どれだけ大きくなったか競った。

雪合戦は、お互いに雪を踏み固めて陣地を作って、雪球を沢山作っておいて
「よーいはじめ」で投げ合う。
なくなると雪球を作りながら投げるのだが、子供同士の合戦は顔に当たったり
襟首から雪が入ったりすると、だんだん向きになって遊びを通り越して、真剣
勝負になるのであった。

ヤッケのフードを被って、踏んでいない雪に仰向けにどさっと倒れて、両手両
足を広げて動かすと蝶々のような跡が残る。
青空を見て雪に寝転ぶのは楽しい遊びだった。

大きく息を吸って雪に顔を押し付けて、自分の顔の跡をつけるのは冷たいけれ
ど、汗をかくほど遊んだ後には気持ちのいいものだった。

どさっと座ってお尻の跡の大きさを比べたり、できるだけ大股で歩いてその足
跡を同じように歩けるかどうか、どちらの歩幅が大きいか、つまり足が長いか
競った。

長靴のかかとを軸にして少しずつ足先をずらして、花や円を作った。
雪を踏み固めて四角い部屋を沢山作って、雪でテーブルや椅子を作って、雪の
お皿に雪のお団子を載せて、お客さんごっこをした。

大きな雪玉を作って雪を積み上げて固めて、スコップで削ってかまくらを作っ
った。
中に筵を敷いて蜜柑やおやつを持ち込んで食べたりもした。
中は雪の白さか雪を通して光が感じられるのかとても明るかった。

雪を踏み固めた迷路まがいの遊びも楽しかった。
TVもゲームもない時代の子は、家のなかの遊びに飽きると、外遊びを色々考
えた。

「男に生まれればよかった」と思いつづけた、男勝りの子どもの私が、どんな
遊びでも負けずに頑張ったけれど、女に生まれて一番悔しく残念だったのは、
雪におしっこで字を書けないという事だった。

人生50数年やってきて、今でも今度生まれてくるとしたら、やっぱり男だな
と思っているのである。

  ぶらりとさがつて雪ふる蓑虫  山頭火

  雪の小鳥がかたまって食べるものがない  山頭火

  こしかたゆくすえ雪あかりする  山頭火

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    著者 佐藤北耀

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