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      MAIL MAGAZINE  梟雑話
       2003/02/01  [040]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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雪降り

ちょっと銀行と買い物に行って来ようと出かけたが、だんだん雪になってきた。
まあ戻る頃には止むだろうとたかを括っていたが、ますます激しくなってきた。
行きしな車道は乾いており、歩道も日の良く当たるところは、少し湿っていた
が顔を出していた。

いつもは車で町へ行くのだが、一昨日から、スタマックフルーで吐いたり下し
たりしている父の世話で少々疲れて、思考も鈍り運動不足でもあったので、昼
過ぎまで晴れて空もそんなに暗くはなかったし、リュックを背負って歩いて出
かけたのだった。

最後の店で買い物を終えて、首に巻いていた木綿のマフラーで頬被りして残り
を首に巻いて、毛糸の帽子を目深に被って、降りしきる雪の中を歩き出した。
来しな顔を出していた歩道は真っ白になり、雪は靴の下でギュッギュッとなっ
ている。
来る時は追い風で当たらなかった雪が顔に冷たい。
マフラーを寄せてできるだけ顔を覆って、一歩一歩踏みしめる。

トラックは雪を舞い上げて力強く坂を登っていく。
下ってくる乗用車はスピードをおとして静かに行く。
歩道脇の小高くなっている藪は、生成り色に枯れた茎の先端の3枚の葉が、丸
みを帯びた三角形を形作っている、無数の笹の葉を下草にして、セイタカアワ
ダチソウは、枯れた茶色の茎の先に、灰色がかった枯れ花の房を豊かにつけて
いる。

ヨモギは黒っぽい沢山の葉をつけて枯れている。
萩は繊細な枝を広げて黄土色に枯れている。
アカシアの5、60cmの幼い木は、とげとげを1〜2cmおきにつけて、雪
の中から1本また1本と顔を出している。
それらのどれもこれもが今降っている雪をのせている。
萩は白い花が咲いているようだし、アカシアはとげにちょっぴり雪をのせてい
る。

道路脇の林には、葉の落ちた落葉松が空を押して伸び立ち、雪をのせて広がっ
た細い枝先が、まるで蜘蛛の巣のように見える。
その間にある伸びきれない椴松は、落葉松の半丈くらいで、常緑の葉に雪をの
せている。

自衛隊の幌をかけたトラックが雪煙をあげて1台行き、その後にジープが1台、
そして白いバンが1台カーブした坂を登っていく。
顔に当たる雪が、私の息の湿気と一緒になってマフラーを凍らせ始めて、口の
あたりがバリバリしてきた。
帽子の上にも半コートの胸にも、みるみる雪が積もっていく。

父の畑のあたりまできたら林が途切れて、沈み行く太陽が降りしきる雪のベー
ルの向こうにぼんやりとかすんで、オレンジともピンクともつかない、今まで
に見たこともない色合いで西の空を染めていた。
「ああ、きれい」、カメラに収めなくてはと思って歩を早めた。

玄関で鏡にうつった私は、完全防備のスノーウーマンだった。
順番に脱いで雪を払って、家に入って西の空を見たら、残念、いっそう激しく
なった雪で太陽はすっかり見えなくなっていた。

冷えた膝に軽い痛みを覚えながらこの文章を書いている。
美原の雪の日の通学もこんなだったな、もっと気温の低い雪の日は、上下の睫
毛がくっ付いて目を開けるのが大変だったな、大きく息を吸うと鼻毛がくっ付
いて鼻が塞がったな等、懐かしく思い出しながら・・・・・

外はすっかり暗くなった。
さあ、愛犬嵐雪に食事を与えに行こう。

 追記:外に出ると雪は6cmほど積もってまだ降り続いていた。
    寝る前に一度雪を掻いておかなくては。


  何事もない枯木雪ふる  山頭火

  雪もよひたうたう雪になってひとり  山頭火

  倒れそうな垣もそのまま雪のふる  山頭火

  枝をさしのべてゐる冬木  山頭火

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    著者 佐藤北耀

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