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      MAIL MAGAZINE  梟雑話
       2003/02/10  [041]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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兎狩り

兎追いしかの山、小鮒釣りしかの川・・・・・
美原は川に縁がなかったが、山に囲まれた大自然であったことはすでに何度も
述べている。
同級生のお父さんで、父に所によく遊びに来る鉄砲打ちの名人がいた。

一杯飲みながら時には花札などしながら、色々な話をしていた。
昔は鉄道の保線の仕事をしていたようで、人身事故の話をしていたことがあっ
た。
話からその凄まじい光景が想像されて恐ろしかったものだ。

ある日その人から一塊の熊の肉を貰った。
赤い肉の塊を前に母は困惑していた。なんでも臭いがあるので、味噌を使って
料理したらよいということだった。
どんな風に料理されて、どんな味だったか覚えていないところを見ると、子ど
もは食べなかったのかもしれない。

春まだ雪の残るある日、兎狩りをすることになった。
子どもや大人が多数参加して追い出し係りをやった。
林の一区画の三方を囲むようにして、「ほーほー」と大きな声を出しながら、
鉄砲の打ち方が待つ方へとじわじわと進んで行く。

声に驚いた兎が逃げて、林を抜け出したところを打つのである。
何匹射止められたのであろうか、記憶は定かではない。
翌日一学年上の男の子が、大声を出しすぎてすっかり声が枯れてしまっていた。

当時はニワトリ、豚、山羊、綿羊などを飼っている家が多かったが、そんなに
いつでも肉が食べられるわけではなく、野兎の肉も食用になった。

父も教えてもらって、家の周りや近所の林の中に針金を使って作った罠を仕掛
けた。
雪の上に足跡がついていて兎の通り道がわかるので、その道の木の枝陰になっ
たところや、物陰になったようなところに仕掛けるのである。

罠を素手でさわると人間の臭いがつくので父は手袋をして作っていた。
たまに触ったりすると叱られた。
触った罠は火にあぶって臭いを消して使われた。
朝見まわりに行くと兎がかかっていることがあった。

かかった兎は皮をむかれて、物置の風呂場に逆さに吊るされて血抜きされた。
赤黒いような色のそれは、子ども心にとっても怖かった。
やがてちょっと臭いのある肉は細かく切られて、カレーや濃い味の煮物の具に
なった。
いやいやながら食べていたが、貴重な蛋白源だったのである。

後年父が「野兎が媒介する野兎病があるので怖かったんだがな」と言っていた
が、何事もなく皆無事だった。
毛皮はなめされて長いこと家にあったが、今でも押入れのどこかにあるのだろ
うか。

  日の照れば雪山のいよいよ白し  山頭火

  冬の山が鳴る人を待つ日は  山頭火

  ふるさとはあの山なみの雪のかがやく  山頭火

  あれがふるさとの山なみの雪ひかる  山頭火

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    著者 佐藤北耀

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