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      MAIL MAGAZINE  梟雑話
       2003/03/24  [047]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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ブラジル5

8ヵ月余りホテルに滞在した。
坂の中間あたりに位置したホテルの5階の部屋だった。
このホテルには、長期滞在している外国人が結構いた。
単身で来ている数人のドイツ人、2歳の息子より少し大きいニコラという男の
子を連れたフランス人夫妻、数ヶ月してから来た小学生くらいの男の子2人を
連れたラテン系の夫妻がいた。

ニコラは悪戯っぽい目をした、むかし見たわんぱく戦争(?)という映画の主
人公みたいな顔をしていた。
両親は2人とも長身で、いかにもフランス人という洒落た感じの人だった。
ロビーで子どもを遊ばせたりしている時に、ニコラが息子のところに来て遊ん
だりしているのだが、食事時に顔が合っても親は知らん顔でいるのでなんだか
気まずかった。

ラテン系の子達は大きいので、ロビーや2階へ続く階段をかけまわっては、フ
ロントの人に叱られていた。
ある日奥さんが目の周りにあおあざを作ってロビーにいた。
時々夫婦喧嘩をしていたので、きっとご主人に殴られたのだろうと思った。
その家族はいつのまにかいなくなった。

ホテルにはバーがあって、ドイツ人はよくビールやカイピリーニャという、さ
とうきびで作った強烈な酒にレモンを入れたものを飲んでいた。
いつも見慣れた顔の女の人が1人、2人一緒に飲んでいて、やがて部屋に上が
っていった。
いつも組み合わせが違うので変だと思っていたら、あとからその筋の人だと知
った。

ブラジルでは水質が悪くて水道水は飲んではいけなかった。
ブラジル人は飲んでも大丈夫らしかったが、日本人は飲むとお腹をこわしたり、
泌尿器系の病気になったりするということだった。
大きなボトルのミネラルウオーターを毎日買いに行った。
蛇口をひねると飲める水が出るというのは、なんとありがたいことだろうと思
ったものだ。

初めのうちはホテルのレストランや外に出て外食していたのだが、だんだん日
本食が食べたくなって、電気コンロと鍋、フライパン、調理器具などを買って
きて内緒で作るようになった。
何本も水を買ってこなければならず、フロントにばれないように気を配るのが
大変だった。

ブラジル人も米を食べるので米は安かった。
東洋の食材店では味噌、豆腐、煮干、乾燥わかめ、漬物などが買えた。
坂を下りると大きな市場があって、魚、肉、卵、野菜、果物は新鮮でよいもの
が安く手に入った。

部屋は多くの電気を使うようにはなっていないので、鍋のものがふいて電気コ
ンロのコイルについたり、アイロンと併用したりして電力を使いすぎたりする
と、ブレーカーが下りて廊下や近辺の電気が消えた。
苦労して初めて作った味噌汁を飲んだ時は、ほっとする美味しさで嬉しかった。

毎日メイドさんが入って部屋を掃除するので、器具、食器など見つからないよ
うにクローゼットにしまっていたが、きっとわかっていたろうと思う。
帰国する時に全部メイドさんにあげたら、とっても喜んでいた。

日本食のレストランもあったが、大して美味しくもなくやたら高かった。
そして蝿がぶんぶん飛んでいるので二度と行く気にならなかった。
ホテルのレストランでも小さなネズミが隅っこを駆け抜けるのを見たし、ゴキ
ブリも見た。


  こころすなほに御飯がふいた  山頭火

  あたたかい白い飯が在る  山頭火

  蒲団ふうわりふる郷の夢  山頭火



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    著者 佐藤北耀

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