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      MAIL MAGAZINE  梟雑話
       2003/03/31  [048]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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ブラジル 6

その頃おばといとこがサンパウロに住んでいた。
サンパウロは巨大な都市だった。
日系人、日本人が多いところで、日本人街があった。
移民で苦労の末成功した日本人たちが、大小の商店を構えていた。
土産物店、本屋、食料品店、食堂、ホテル、薬局、美・理容店などがずらりと
並び、日本とほとんど変わらぬ一角であった。

パウリスタという日本語の新聞も発行されていて、日系人のニュースが掲載さ
れていた。
町の中は日本の文字が溢れていて、そこを通るブラジル人を除けば日本かと錯
覚するようだった。
私達はおばのアパートの近くの、富士屋ホテルという日系人の経営するホテル
に滞在した。

薬局で日本の薬と若干の化粧品を買って支払いをしようとして仰天した。
日本人は金持ちと思われているので充分注意するようにといわれて、気を張っ
て生活していたのだが、日本人街であることに懐かしさと親しみを感じて、た
ぶん隙があったのだろう。
なんと夫のショルダーバッグから財布もパスポートも身分証明書も全て消えて
いた。

2歳の息子を抱いていたので、バッグは後ろになっていたようでスリにやられ
たのであった。
横を歩いていた私も全く気がつかなかった。
地元の人は鞄やバッグはしっかりと抱え込んで歩くのだそうである。
急いでおばに連絡をとっていとこと夫は警察に届け出に行ったが、多分出てこ
ないだろうということだった。

浮かない気分だったが、おばにお金を借りていっしょにサンパウロ見物をした。
郊外の動物園ではサハリパークもあって車の屋根やドアに上ってくる猿に閉口
しながらライオンなどを見て回った。
柵のなかの皮膚の色が赤黒いカバは暑さに汗をしたたらせていたが、汗の色は
皮膚と同じような赤黒い色だったのが印象的だった。

蝶の羽で作った飾り絵など土産物を買ったり、ヒッピー市を見たり、いつしか
憂鬱な気分も忘れてサンパウロを楽しめたのは、おば達のおかげであった。

航空券はすられていなかったので、ベロオリゾンテに無事帰って暫らくしてか
ら、パスポートと身分証明書は捨てられていたのが見つかって奇跡的に戻って
きた。
スリはどの国にもいます。ご用心。


            ***********            

ついこの間まで氷と雪だったのにすっかり解けてきて、庭にふきのとうが二つ
顔を出しました。
父のダリアの球根を買ってもらうべく、チラシを作って近郊の町や札幌の郊外
などに配っています。
北海道は福寿草が咲きはじめたところで、春の花もまだ芽を出し始めたばかり
です。
玄関の凍て蝶はまだ眠っています。

  蕗のたうあしもとに一つ  山頭火

  いつも出てくる蕗のたう出てきてゐる  山頭火

  蕗のたうことしもここに蕗のたう  山頭火

  ぬかるみのもう春めいた風である  山頭火

  たたへて春の水としてあふれる  山頭火


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    著者 佐藤北耀

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