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      MAIL MAGAZINE  梟雑話
       2003/04/07  [049]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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4月3日子どもに用があって茨城に来た。

常磐線に乗るべく上野駅に着くと、構内は公園方面に向かう人でごった返して
いた。
いつもより人が多いなと思って、ホームへの降り口あたりまで来てふと前を見
ると、いつもテレビでお目にかかっている横田めぐみさんのご両親が居られた。

人込みでは気がつく人がいないのか、そっとしておいてあげたいのか誰も気が
ついたような素振りもなかったので、私もお声をかけてはご迷惑と思いホーム
に降りた。
電車が動き出して、先ほどのお母様の憂いの深い目を思って胸がつまって涙が
出てきた。
どうぞめぐみさんが無事に帰ってこられますように。

少し走ると人込みの訳がわかった。
沿線の桜が満開に近い。花見の客だったようである。
北海道は春とはいえまだ雪が残っていたし、解けていても土が凍っていて日の
当たらないところは泥んこ状態で、早いところでは福寿草かクロッカスが咲い
ていた。

翌日、戸頭の公園に行ってきたが、春爛漫で桜、かんひざくら、枝垂桜、辛夷、
木蓮、れんぎょう、ぼけ、雪柳、名残の椿と山茶花、お茶の木も蕾を開き始め
ていた。水仙、チューリップ、ヒヤシンス、ムスカリ、桜草、パンジー、ビオ
ラ、などが花壇に、野原にはイヌフグリ、つくし、カラスノエンドウ、菫、た
んぽぽ、ナズナ、オドリコソウなどが咲いていた。

公園には濃い色のかんひざくらが数本あって、そのうちの一本が不自然に揺れ
ていた。
よく見ると鶯と同じような色の小鳥が10数羽、細い枝に捕まって上になった
りぶら下がったり、くるくると体の向きを変えながら、花に嘴を突っ込んで夢
中で食べている。

なおも目を凝らしてみると目の周りが白い。
「目白だ」と私。  「この可愛い鳴き声は目白だね」と息子。
神戸で見たつがいの目白は、目の周りの白がもっと大きくて、遠くから見ても
わかるほどだったのに、この一群は白い部分が小さくてわかりにくかったので
ある。

私達の声を聞いてベンチに座っていた人たちも見に来て、目白の可愛い仕草を
長いこと一緒に見ていた。
春の陽気の中で花と小鳥と、皆口々に「来てよかったね」と幸せを感じた一時
だった。

帰りしな、もと畑だったような空き地で何かを摘んでいる女の人がいた。
大きなビニール袋に野菜風のものだった。
これは何ですかと尋ねたら、からし菜だと言う。
からし菜の漬物は食べたことがあるが、こんな葉だとは知らなかった。

その人は何か懐かしさを覚えるような茨城弁で、「まな板の上で塩を沢山振っ
て転がして揉んで、花が伸びないように熱湯をかけて殺して、塩漬けにすると
美味しいよ」と教えてくれた。
一握りほど摘んで持ち帰ってやってみた。

翌日食べてみたら少し塩がきつかったが、ほろ苦く辛い漬物になっていて、春
を頂いた。


  すみれたんぽぽこどもらとたはむれる  山頭火

  ほんにしづかな草の生えては咲く  山頭火

  椿が咲いても眼白がないても風がふく  山頭火

  さくらが咲いて旅人である  山頭火


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    著者 佐藤北耀

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