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      MAIL MAGAZINE  梟雑話
       2003/04/28  [052]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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ドライバーズライセンス2

「アナタ カメ」「オソイノ ダメ」「ウシロノ アメリカジン オコルヨ」
なんど言われたことだろう。

教習2回目、先生のマイクは約束の時間にドアベルを押してやって来た。
前回のことを思い出し、今日の1時間の命にかかわる特訓を思うと朝から落ち
着かない。
ベッドに転がったりお茶を飲んだり、何とか心を落ち着けようとしているのだ
が、マイクが来る前から疲れてしまっている。

120ドルの小切手を持って車に乗り込む。
1回120ドル払うのである。
その頃は1ドル約100円だったので、1万2千円、あだやおろそかに出来ぬ
金額である。

家の前でマイクはドライバーズスクールの看板を屋根にのせる。
これで誰の目にもこの車は練習中の要注意の車だとわかるわけだ。
このての車が結構走っている。

すぐ運転席に座らされて、「エンジンヲ カケテ」と言われる。
「コノアイダナラッタコト オボエテイマスカ」「スタートシテクダサイ」
そろそろと発進して第一の角を曲がるのだが、まだまだどれくらいハンドルを
切ればよいのかわからない。

アクセルを踏む足が勝手に力を抜く。
一発目の「アナタ カメ オソイ」が発せられた。
何?カメ?どこで覚えた、この日本語。
「モット アクセレレイターヲ フンデ」、踏んだつもりだがさっぱりスピー
ドが出ない。
どうやら私は足にカメを飼っているらしい。

暫らく直進してまたカメになって少し大きな通りに出た。
「あっ、どうしよう」前からトラックがきたのだ。
トラックが私をめがけてきているように思えてパニックになった。
「ダメダメ ヨソミシナイ」「アナタハ ジブンノミチノ マエダケミル」
マイクは怒ったようにいう。

命にかかわることを習っているのだから、マイクも真剣に教えていると解って
いるのだけど、「何もそんなに怒らなくても」とつい反発心が湧く。
右回りのカーブ、左回りのカーブ、左右の確認を確実にすることなどを教わる。
プルオーバー(道の端に寄せて止る)の仕方は、席を替わってお手本を見せて
もらってから練習したが、なかなかうまくいかない。

近辺を何度か回ってやっと終わった。
家のドアを閉めるともうぐったり、ああ次回が恐ろしい。
                           つづく

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水芭蕉を初めて見た。近くの沢に群生している。
話しには聞いていたのだが、いつも時期を逃していた。
車をとめて沢に下りていくと、水の流れに沿って水の中に、枯草の中に若草色
の地味な花が真白い頭巾のような包につつまれて咲いている。
これまた包み込むような緑の大きな葉たちに囲まれている。
森の小人さんに出会ったようで感激した。

人っ子一人いない森閑とした沢は、なんとも言えぬ水芭蕉のいい香りが満ちて、
鶯が鳴いており、ちりちりと可愛らしい小鳥の声も聞こえて別世界に入り込ん
だようであった。
こんな春を車でわずか5分のところで体験できるなんて幸せですね。
明日もまた見にいこう。

  山のしづけさは白い花  山頭火

  春がきた水音のそれからそれへあるく  山頭火

  こころおちつけば水の音  山頭火

  さえづりかはして知らない鳥が知らない木に  山頭火


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    著者 佐藤北耀

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