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      MAIL MAGAZINE  梟雑話
       2003/05/05  [053]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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ドライバーズライセンス3

カメはなかなかウサギになれず、回数を重ねて10数回約18万円ほど授業料
を払った頃、小切手を切りつづけている夫は「もうそろそろいいだろう。路上
テストを受けろ」と言う。
マイクにもその旨伝えて授業は打ち切りになった。

アメリカではペーパーテストが受かると、ライセンスを持った人が同乗してい
れば車を運転することができる。
それからは夫が助手席に乗ってテストコースでの練習を何度かしたのだが、あ
れこれといちいち言われてこれがなんともやりにくい。

免許試験場の駐車場からスタートしてテストのコースを走る。
「ここを右に曲がって」「イエス サー」、「ここを左に曲がって」「イエス 
サー」、試験官の印象を良くするにはこの「イエス サー」が大事なのだとい
う。

モールという大規模なショッピングセンターに隣接している免許試験場の周囲
はやたら車が多い。
車の多い大きな通りで車線変更をして森に入り、一旦停車してスリーポイント
ターンをして来た道を引き返す。
そして試験場の駐車場にきちんと車をとめる。

いよいよテストの日、会社を休んで夫がついてきた。
曜日と時間が限られている路上テストは順番待ちで、次々と試験官に呼ばれて
出て行く。
戻ってきた時の表情で合格か不合格かわかる。

男の試験官に呼ばれて私の番だ。
緊張で心臓がドキドキである。
車の色と型式を聞かれて、先に行って待っているように言われる。
採点表を持った試験官が来て助手席に座りテスト開始である。

エンジンをかけて左右を確認して発進、「そこを左に曲がって」「イエス サー」
とは言ったものの、モールの中へ行く道ではないか。
「いやーどうしよう」今まで何度もこれがテストコースだと、夫や友人から教
わっていたコースと違う。

もともと自信のないまま受験しているのだから、ドキドキはいっぺんに高まっ
てカーっとなってしまった。
それでも何とか車線変更も出来て、森の中でスリーポイントターンも成功して
ほっとしたが、森から大きな通りに出る時にストップ標識を見逃してしまった。

試験場に戻ってきてどこがいけなかったかを言われて不合格。
渋い顔をする夫を横に乗せて、帰り道はなんと床ブレーキを入れたまま走って
途中で気がつくというさまだった。

数日おいて再テストを受けに行った。
「今日こそ合格してくれ」といわれるが全く自信がない。
順番を待っているとテストを受けたよぼよぼした老婦人が、女の試験官にいろ
いろ言われて泣いている。
年齢的にもう運転は危険だから免許は取り上げられるようである。

一人暮らしや伴侶が運転できない老人は自分が運転できなくなると、即生活に
不自由することになる。
そんな光景を見て複雑な気持ちで待っている私の名前を呼んだのは、なんと老
婦人に厳しく応対していたその女性試験官だった。

「めぐり合わせが悪いな」と思って車の前で待っていると、試験官は車の周り
をぐるりと見て回り、「この車では試験は受けられない。州に税を払って受け
取った赤いステッカーが張っていない」と言う。
前回の試験官は何も言わなかったし、何のことか解らない。

完ぺき主義の夫は自分のミスと会社を休んできたのに試験が受けられなかった
ことで不機嫌で、冷戦状態で家に戻った。
書類の中にあったステッカーをはって翌日また試験を受けたが、またまた前回
とも全く違うコースで不合格。

そして数日後、4回出向いて3回目のテストでやっと合格できた。
イリノイ州が背景のかっこいい免許証を手にしたのである。
ここでまた落ちたら駐在員の奥さんのワースト記録となると言われていたので
ほっとした。

それから5年ほど学校の送り迎え、買い物、ガレージセール、旅行など8万マ
イル(1マイル=1.609km)ほど車を乗り回した。

さて帰国して免許の書き換え試験を明石で受けた。
試験場のいちばん簡単なコースと言うことだったが、狭い道のS字カーブと直
角に曲がるところで失敗してまずは不合格。
数日おいて二度目で日本の免許証を取得できた。
父の手伝いに来て北海道でこの免許証が大いに役立っている。

           ***********

北海道もやっと桜の季節になりました。
父の庭の山桜はまだまだ蕾が固いようです。
凍て蝶がいつまでも目覚めないので手にとって見たら死んでおりました。
途中で目覚めさせたことで、エネルギーを消耗させてしまったのだろうと思い
ます。
可哀想なことをしてしまいました。

  あるがまま雑草として芽をふく  山頭火 

  けふのよろこびは山また山の芽ぶく色  山頭火

  ゆらいで梢もふくらんできたやうな  山頭火  

 
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    著者 佐藤北耀

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