##################################################

      MAIL MAGAZINE  梟雑話
       2003/05/12  [054]

##################################################
 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
##################################################

さくら

先日静内の20間道路の桜を見にいった。
桜祭の案内看板にしたがって町なかを外れて山側に進むと、道に面して両側に
は・・牧場と書かれた看板と家が並んでおり、その裏手はみな牧場になってい
る。
規模は違うが間口が狭くて奥に深い京都の町家の牧場版といったところだろう
か。
広々としたところに点在する牧場の家屋を見慣れた目には、ちょっと不思議な
光景だった。

大きな木の門柱を左折すると桜が見え始め、まもなく本格的な桜並木になった。
20間道路の桜は大正初期、当時の御料牧場の正門から事務所まで、8キロに
3年がかりで植樹された1万本のエゾヤマザクラだそうである。
まだ満開ではなかったもののその景観は見事で、同行の父と「うわーすごいね」
と声をあげた。

エゾヤマザクラはごつごつした幹の大樹や比較的若そうな樹が混在していて、
花の色も濃いもの薄いものがあった。
種がこぼれてあちこちに生えた山のなかの桜を集めたのだから、1本1本微妙
に色が違うのだという。

8キロ歩くのはたいへんだと言う父に、「これは色が濃いね。こっちのは薄い
ね。家のは箒のような樹の形態だが、ここのはごつごつした樹だな。何百年く
らいの樹だろうか」と、ゆっくりと走らせる車の中からの桜狩となった。

8キロのエゾヤマザクラは、遠くの日高の山々や空まで淡い桜色に染めている
ように見え、もう別天地であった。
今でも目を瞑るとありありと浮かんでくる。

桜は散り始めが好き、桜吹雪の中を歩くのが好きである。
あの後寒い日が数日あったから、今ごろは桜吹雪ではないだろうか。

北海道、関東、関西に住んであちこちの桜を見た。
上野公園の桜、水戸の桜、大阪城の桜、千里の万博公園の桜、夙川の堤防の桜、
吉野の桜、甲子園球場近辺の桜、京都の円山公園の桜と巨大な傘のような骨組
み(?)で支えられた老大木の枝垂桜、平安神宮の色濃い枝垂桜、1年ほど住
んだ神戸須磨の桜、各家庭の各町の桜などなど春は時期を少しずつずらして南
から北まで桜、桜、桜。

いつまでも桜の似合う日本人、日本であって欲しいと願う。

家の前庭にあるエゾヤマザクラは濃いめの色で3部咲きほどになった。

  さいてかげする花のちる  山頭火

  駐在所の花も真っ盛り  山頭火

  枝をさしのべて葉ざくら  山頭火
  

           ***********

思い立って急ごしらえのダンボールの看板を作って、父が30年丹精こめて新
しく生み出したダリア300種のなかの1部をこの1週間ほど販売している。
初めて道行く車の人に物を売るということをやってみて、これが疲れるけれど
楽しい。

お花の好きな人に悪い人はいないというが本当にそう思う。
看板が少し小さいので車をとめて来てくれる人は多くはないが、偶然通りかか
った人、花の時期にいつも車から一面の花畑を横目で見て通っていた人、この
町の人などが来てくれた。

1球1球丁寧に袋に入れて、父の撮った花の写真のラベルをつけてあるのでみ
な喜んでくれる。
「実際は写真よりも美しいですよ。よい花を咲かせて楽しんでください。」と
私も幸せな気分。
自分の庭に畑に咲くだろう花を思うお客さんの幸せな気分。
少し離れたところでそれを見聞きする父も幸せな気分。

物を作って売ると言うことは幸せも売ることだと思った。



###################################

    著者 佐藤北耀

###################################