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MAIL MAGAZINE 梟雑話
2003/05/26 [056]
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ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
山頭火の句
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郭公
5月23日夕方、郭公の初鳴きを聞いた。
家の中にいた父に「カッコウが鳴いているよ。豆を蒔いてもよいということだ
ね」と告げる。
むかしから「郭公が鳴いたら豆を蒔け」と言われている事を知ったのは何年前
のことだったか。
50年ほど前の美原では、尻別岳とその麓の馬鈴薯農場の圃場を取り囲んでい
る林の中で、「カッコーカッコ−」と春を告げる郭公の澄んだ鳴き声はこだま
してどこまでも響きわたっていくようだった。
雪が解けて木の芽が吹き出すと、半年も雪に閉じ込められていた生活がようや
く終わり、野山の大好きな私は数人の友と連れ立って手に棒切れを持って、林
の中の探険によくいった。
一斉に伸び始めた草ぐさのなかにエゾエンゴサク、オオバナエンレイソウ、ニ
リンソウなどが咲き、ワラビが出始めている。
手にした棒で、蜘蛛の巣を払ったり、木の枝をよけたりしながら分け入って行
く私達に、郭公の声は「春だよ、春だよ」と告げているようで、心地よく嬉し
いものだった。
「緑の森の彼方から、陽気な歌が聞こえます・・・・コトコトコットン、コト
コトコットン、ファミレドシドレミファ・・・・・・」、調子のよい歌が口を
ついて出た。
この郭公が、似たような斑点のある卵を産む鳥の巣に留守中忍び込んで、その
鳥の卵を一つ放り投げて、自分の卵を一つ産んで抱かせて育ててもらう托卵と
言う習性があることを知ったのは大人になってからだった。
ほかの雛よりも一足早く孵化した郭公の雛は、ほかの卵や雛を巣の外に放り出
して自分だけ育ててもらう。
托卵された鳥はそんなこととは露知らず、自分の子と思い自分の頭よりも大き
い黄色い口をあける食欲旺盛な郭公の雛に、せっせと餌を運ぶけなげな姿はい
じらしい。
先日道端でアオジという小さな鳥の死骸を拾った。
胸の毛がきれいな黄色だったのでデジカメに収めて、山桜の木の根元に埋めて
やった。
郭公が托卵する鳥のうちの一つだそうだが、こんな小鳥が郭公を育てるなんて
どんなに大変だろうと思う。
郭公といえば更科源蔵さんの「アイヌ文学の生活誌」のなかに郭公の神謡とと
もに書かれている一文があるので紹介したい。
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十勝の芽室太(めむろぶと)に盲目の老婆を訪れたのは初夏だった。「今朝は
カッコ−がなきだしたね」というと、老婆は花でもひらいたように顔をかがや
かせながら、「そうか、カッコン・カムイ(カッコ−神)がなきだしたか、そ
れではもう川に鱒が入ったな」といった。
「カッコ−がないたからといって、どの川にも一度に鱒が入るとはきまってい
ないんだ。雪解けの早い山から流れてくる川は水がぬるむから早く入るけれど
も、雪が多くて雪解けの遅れた川には水がつめたいから、なかなか鱒が入らな
いのさ、だからカッコ−がうたっているべさ
カッコ− チカッペツに魚いると
カッコ− 利別川に魚いない
カッコ− 利別川に魚いると
カッコ− チカッペツに魚いない
カッコ− カッコ−
てな、そういってカッコン・カムイが人間に教えてくれるんだ」
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( チカッペツはチコルペッで われわれの持つ川=我郷川の意)
( 利別川はト・ウシ・ペツで 沼の多い川の意で昔はどこにでもあっ
た川の名)
アイヌの人にとって郭公は鱒が来たことを教えてくれる鳥だったようだ。
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山頭火は行乞の旅路で郭公の句をたくさん作っている。
あるけばかつこういそげばかつこう 山頭火
一人となれば分け入る山のかつこう 山頭火
落葉松は晴れ切ってかつこう 山頭火
かつこう(な)いて(は)れそうもないみどりしづくする 山頭火
明けるとかつこう家ちかくかつこう 山頭火
すぐそこでしたしや信濃路のかつこう 山頭火
ゆふべ(な)きしきる郭公を見た 山頭火
( )の字は変換できない字なので平仮名にしました。
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著者 佐藤北耀
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