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      MAIL MAGAZINE  梟雑話
       2003/06/02  [057]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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カミナリシギ

ジージージージャッジャッジャ、可愛いとはいえない声が気になって、小さな
双眼鏡で少し離れたところにある電柱のてっ辺で鳴いている鳥を見た。
倍率がさほど大きくないのと、右目の視力が極端に悪いので焦点を合わせるの
に苦労するのはいつものことだ。

やっと焦点が合って見えたその鳥は、ほとんど尾羽がないころっとした体型の
中型の嘴の長い鳥だった。
脚の長さと嘴の長さが同じくらいだ。
体の色、特徴をもっと見たいと思って畑の端まで行った。

やっと識別できたのはお尻に近いほうの羽根が黒っぽいこと、頭に濃い色の横
縞があること、体は雀のような色を少し淡くして背のあたりに黒っぽい羽根が
混ざっていること、先細りの細く長い嘴がなんともユーモラスだということ。

父の持っている昭和25年発行の日本鳥類図説を見たら「オホヂシギ」(オオ
ジシギ)が一番ちかい。
オオジシギだと確信したのは、今まで度々耳にしていたザァザァザァザァザァ
ザァと私には聞こえた不思議な音だった。
音のする方を見ても何も見えないし、これは一体何なのだと何年来の疑問だっ
た。

図説によると冬期には沼沢湿地に棲むが、4〜7月の蕃殖期には高原または平
地の草原に移動し営巣する。
この時期にはやや高空で旋回運動をしたり、ガラガラガラまたはグッグッグッ
グッという激しい音を発して急降下するなど不思議な行動をする。
このために蕃殖地では「カミナリシギ」の俗称があるとあった。

水芭蕉の沢で、畑仕事や散歩の時に何度も聞いた音の疑問がやっと解けた。

朝の散歩の所持品に双眼鏡が加わった。
首に手拭を巻いてジャンパーをはおって、ズボンの裾を靴下の中に入れてゴム
長靴か紐付きの深めの靴を履き、デジカメと双眼鏡を首からぶら下げて山菜を
見つけた時用のビニール袋を下げての格好は、車で通る人目しかない田舎なら
ではだ。

木々の梢を見上げ双眼鏡で目を凝らし、時には道端の山草や山菜を腰をかがめ
て写真を撮ったり摘んだりして歩いていると、1時間半ぐらいはあっという間
に過ぎてしまう。
朝ご飯の支度をしなくてよいのならどこまで行ってしまうことだろう。

台風のもたらした久し振りの雨は、土ぼこりのこの地には恵みの雨となった。
窓外に見える落葉松、紅葉、赤い花が盛りのボケの木、ハマナス、桜草、蕗、
アイリス、芍薬などの若葉、そして雑草もみずみずしい色で雫を落としている。

上から落ちてくる若葉の雫は中ほど、更にその下、その下と順ぐりに木の葉の
鍵盤を叩いて優しく揺れている。
先日テレビで見た蟻の足音や小さな虫が葉を食べる音などを拾うマイクで聴い
たら、どんな音楽になるのだろう。


  霧の底にて(な)くは筒鳥  山頭火

  音は朝から木の実を食べに来た鳥か  山頭火

  道がわからなくなり(な)く鳥歩く鳥  山頭火

  いただきの木のてつぺんで鳥はうたふ  山頭火

  さえづりかはして知らない鳥が知らない木に  山頭火

 (山頭火は、なくの「な」に口へんに帝の漢字を使っています。)


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 ホームページのトップページに花・虫などの写真と葉書に一筆書いたものを
 添えて、週2、3回、時には日替わりで載せています。是非ご覧ください。


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    著者 佐藤北耀

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