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      MAIL MAGAZINE  梟雑話
       2003/06/16  [059]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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阪神タイガース

昨年の2月から30数年ぶりに甲子園に住むことになった。
窓、各入り口、売店などのほかは、外壁は深緑の蔦に覆われている年代物の美
しい甲子園球場は歩いて3分すぐそこにある。

父の手伝いが一段落して、12日久し振りに戻ってきた。
13日から阪神巨人戦が3日続けてあるという。

そういえば30数年前も阪神巨人戦は特別なものだった。
この試合の時には貸し切りバスが付近の路に停まって次々と客を降ろしていく。
他チームとの試合の時はこんなことはないので、すぐ今日は巨人との試合だと
わかるのだった。

社宅の前にマンションが建って以前ほど大きくは聞こえなくなったが、こうし
て書いている今も球場のどよめき、歓声、アナウンス、ファンが両手に持って
打つプラスチック製の虎模様のメガフォンやずんぐりした野球バットを叩く音
が聞こえる。
傍らのラジオは、「5万3千人のロケット風船の発射です」といっている。

13日夕刻どんな賑わいかと球場の周りにいってみた。
中からは「かっとばせー***」ダンダンダン、「かっとばせー***」シャ
ンシャンシャンと応援の音や声が聞こえ、人々が出たり入ったりしている。
夕食後窓を開けて眺めていると、カクテルライトの明るい球場の上空に応援の
音、声はガンガン昇っていく。

このエネルギーは一体なんなのだろう。
関西人のタイガースの応援振りは想像に絶するものがある。
弱くても強くてもファンは決して離れない。
俺達の私達の阪神タイガースなのである。

応援の人々の波は夫々にタイガースのグッズを身につけて、弁当をぶら下げて
球場の中に吸い込まれていく。
周辺の商店は虎、虎、虎商品で埋っている。

こんな恵まれたところに住んでいながら、野球に興味がなかったので一度も観
戦したことがなかった。
しかし星野仙一が監督を引き受ける経緯をみて、そしてこの度の転居で私もい
つのまにか阪神が負けたらがっかりする1ファンになってきている。
一度巨人阪神戦の観客席に座って興奮の直中に身を置いてみたいと思っている。

残念ながら13日は負けてしまった。
さて14日朝早く球場の周りに言ってみた。
昨夜のロケット風船が色とりどりにゴミと一緒に散らかっていて、お掃除のお
ばさんたちがブロウアーで吹き集めて、ほうきで掃きとっていた。
開いている入り口から球場の中を覗くと、ごみを山積みした大きな竹篭がひし
めいており、その向こうに今は静かなスタンドが見えた。

球場の周りをぐるっと回り込んで行って驚いた。
朝6時過ぎだというのに行列である。試合は確か夕方からだ。
後ろの方は今しがたついた人達なのだが、だんだん先へ行くとあきらかに徹夜
をした人だと解った。

敷物の上に寝ている人、敷石のブリックにうつ伏せに寝ている人、顔にタオル
をのせて寝ているカップル、寝ぼけ眼で座っている人、トイレから出てきた人
など200人はいるであろうか。
先をたどっていくとこの人たちは外野席の当日券売りのボックスの前に並んで
いたのだ。

こんなに熱心なファンに支えられている阪神タイガースなのである。
私はゾクッとするものを感じた。
午後からの雨で14日の試合は中止となったが、この人たちはきっと明日も観
に来るだろう。

15日午後8時30分いま0対0で試合は進んでいる。
終盤に近づいてラジオのアナウンサーは興奮気味だ。
うとうとして目が覚めると10回裏阪神の攻撃だ。
ワーッと言う歓声がして阪神が1点を入れて勝った。

打った選手がインタヴューを受けている。
彼の言葉に観客がわきたち、いよいよ六甲おろしの大合唱が始まった。
太鼓と歌と勝利に酔う球場からぞろぞろと人々が出てきた。
ヨチヨチ歩きの子までいる。

試合終了後、窓の下を行く人たちを眺めるのが好きなのでいつも見る。
今日は勝ったので皆足取りが軽い。
こんなに熱心なファンがいてどうして負けられよう。
阪神タイガース頑張れ、本物の虎になれ。


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関西は梅雨にはいって鬱陶しい日が続いている。
晴れ間を見てバイクに乗って買い物に走る。風を切って走るのは気持ちがよく
蒸し暑さをしばし忘れることができる。

  梅雨あかりぱっと花のひらきたる  山頭火

  山から山がのぞいて梅雨晴れ  山頭火

  あの雲がおとした雨か濡れてゐる  山頭火

  はれたりふったり青田になった  山頭火


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    著者 佐藤北耀

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