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      MAIL MAGAZINE  梟雑話
       2003/10/29  [069]

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 ふくらうはふくらうでわたしはわたしでねむれない
                 山頭火の句
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アーミッシュ(AMISHU)

シカゴから車で2時間半ほど、インディアナ州ナパニーに入った。
トウモロコシと大豆の畑がアップダウンのある丘陵地に広がっている。
行き交うものもない田舎道を行くと、向こうから一点の黒い物が坂道を登って
来た。

アーミッシュという言葉も知らなかった私達は、ヨーロッパから移住してきた
人々が一つの集落をつくり、アメリカ社会とは全く別の昔ながらの生活様式で
農業を生業として暮らして居り、観光地になっているところなので一見の価値
があるという勧めで、休日を利用してこの村を訪ねてきたのである。

ゆっくりと走る車に近づいてきてその黒い点が見えるようになった時、私達は
「あっ」と声をあげた。
それは小さな黒い箱型の1頭立ての馬車だった。
御者席には黒いつばつきの帽子を被り、白いYシャツに黒い2本の幅広の吊り
紐で吊った黒いズボンを穿いた、頬から顎に真っ黒な髭を蓄えた男性が座って
いた。

一瞬時代をスリップしてどこかに迷い込んだような懐かしい感動を覚えた。
彼らはキリスト教のプロテスタントの一派のメノー派の分派で18世紀にアメリ
カに移住してきて、ペンシルバニア州を中心に数万人いるそうである。

彼らはいまも電気、自動車などを使わずに生活している。
牛馬を農耕に足に利用し、ランプ、ストーブ、洗濯は手洗い、鶏・山羊・羊な
どの家畜を飼い、衣食住を自給自足している。
子どもの教育も独自で行っている。

アップダウンの道を進むと、小さな川には昔ながらの橋がかかり、教会が見え
町に入った。
観光客用に卵、手作りの乳製品、キルトの小物、菓子、絵葉書など土産物を売
る小さな店があり可愛い2人の娘さんが民族衣装で店番をしていた。
民家は質素だがしっかりした造りで、庭には洗濯物がはためいていた。

町の真中辺りの向こうには大きな納屋が数棟あって、農耕機械や藁などが見え
る。
共同で農耕用の牛馬を管理しているのだろう。
更に進むと昔の建物を保存して、観光客用にアーミッシュの生活を紹介してい
る一画があった。

1軒1軒見て回るようになっており、民家の居間兼食堂にはレース編みが掛け
られたテーブル、椅子、大きい鉄製のストーブ、ランプ、飾り物などがあり、
暖かな雰囲気が伝わってくる。
寝室には古いキルトカバーがかかったベッド、傍らには小さなベビーベッド、
古いたんすの上には洗面器と大きな水差しがあった。

キッチンにはオーブンの付いたストーブがあり、壁には鍋、フライパン、調理
器具、皿などの食器が並べて掛けてある。
続いてある物置兼小家畜の小屋には、農機具、木製のバケツや水を運んでここ
で洗濯や沐浴をしたのか大きな盥があった。

教会や学校はこじんまりとしたもので、木製の机や椅子が並んでいた。
グローサリーストアは郵便局も兼ねていたようで、各家宛の郵便物を保管して
いたと思われる小さな引出しが壁に並んでいた。
大きな納屋には昔からの農耕器具、機械が並び、先ほど見た馬車の黒いボック
スも置いてあり、その中は詰めると家族4,5人は何とか乗れるであろうかと
思われる狭いものだった。

資料館に入ると昔からの生活ぶりがつぶさに解るように、解説と展示物が並ん
でいる。
一般家庭の様々な道具、家具、食器は故国からのものだろう美しいものだ。
普段着、正装用の服、帽子、手袋、靴など赤ちゃん、子ども、大人のものが並
んでいる。

男性は黒の吊りズボン、白いシャツ、黒い背広様の上着、黒のつばつき帽子が
すべてだが、正装用の刺繍やレース飾りがついた女、子どもの物は美しく品が
ある。
女性の普段着はギャザーがたっぷりの長いスカートにブラウス、エプロン、頭
には紐付きの小さな布の頭巾といういでたちだ。
服も靴も意外と小さくて華奢な体格をしていたようだ。

資料館ではこの時も女の人が何人かでキルトを刺しており、側の展示ケースに
は5、6人で大きなキルトカバーを刺している写真があり、大小さまざまの昔
からのキルトが飾られていた。
丁寧に刺されたキルトの寝具などは、20年も使えるのだそうである。

家事を済ませた女達は皆で集まって、故国のこと、家族のこと、楽しい出来事、
悩みなどを話し合いながら、糸を紡ぎ布を織り衣服や大物キルトを協力して作
っていたのだろうと想像された。

ベッドがあり医療器具と薬瓶、小さな秤などが机の上に並べてある病院もあっ
た。

これを書いていて、テレビの大草原の小さな家を思い出した。
設定は違うけれどあのような生活に似ているのかなと思う。

それにしてもあの黒い馬車の印象は強烈で、思い出すたびに頭の中にパカポコ
と向こうからやってくる。

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週一回などと約束しておきながら滞っている梟雑話です。
日々畑に終われていると何も書けなくなってしまうのが残念です。
頭がちっとも働かなくなって、ああまた土曜日、いらいらしても書けないもの
は書けない。
いよいよダリアの掘り起こし作業が昨日から始まったが、昨夜から嵐のような
天気で今朝はのんびりとした気分になって久し振りに書けました。
今度はいつ書けるやら気長にお付き合いください。

         山行水行    

       山あれば山を観る
       雨の日は雨を聴く
       春夏秋冬
       あしたもよろし
       ゆふべもよろし
                山頭火

  秋はいちはやく山の櫨を染め  山頭火

  ゆくほどに山路は木の実おちるなど  山頭火

  山の紅葉へ胸いっぱいの声  山頭火

  ふめばさくさく落ち葉のよろし  山頭火

  よびかけられてふりかへつた落葉林  山頭火

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    著者 佐藤北耀

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